2010年12月24日

●「糖質ゼロ」の清涼飲料水の正体

 最近「糖類ゼロ」とか「糖質ゼロ」の清涼飲料水が多く出ています。
ところで、「糖類」と「糖質」の違いがわかるでしょうか。
 まず、知っておくべきことは、「糖類」と「糖質」では、「糖類」の
方が対象範囲は狭いということです。すなわち、砂糖や果糖などが「糖
類」で、その糖類にでんぷんや甘味料を含んだものが「糖質」という定
義になります。
 それに、レギュラータイプのコーラや缶コーヒーなどの清涼飲料水に
は、糖質がおよそ10%の濃度で含まれているのです。こういってもピ
ンとこないでしょうが、1・5リットルのペットボトルなら、角砂糖
(3g)50個分の糖質が含まれている計算です。
 そんなに入っていたら飲めない──このように思う人は多いでしょう
が、冷やすと、甘味を感じにくくなるので、美味しく飲めるのです。常
温ならとても飲めないでしょう。それに最近は健康志向ですから、それ
に合わせて「糖質ゼロ」、「カロリーゼロ」と銘うった清涼飲料水が多
くなっているのです。
 それでは「糖質ゼロ」なら大丈夫かというと、そうともいえないので
す。健康増進法による栄養表示基準では、100ml当り0・5g未満
なら、「糖質ゼロ」と表示できるからです。
 「カロリーゼロ」でも同じようなことがいえます。100ml当り5
キロカロリー未満なら、「カロリーゼロ」「ノンカロリー」と表示でき
るのです。なお、100ml当り20キロカロリー以下の製品は「カロ
リーオフ」や「低カロリー」という表示が許されています。
 「糖質ゼロ」や「カロリーゼロ」の清涼飲料水を実際に飲んでみると
かなり甘いのです。なぜ、甘いのかというと、人口甘味料──アセスルフ
ァムK、スクラロースなど──が使われているケースが多いからです。
 アセスルファムKは砂糖の200倍、スクラロースは砂糖の600倍
の甘さがあるのです。どうしてそんなものが使えるのかというと、これ
らの人口甘味料は体内で消化吸収されないので、カロリーにならないか
らです。
 こういう人口甘味料を飲んでも血糖値は上がらないのですが、過去に
甘いものを食べたときに血糖値が上がった経験を持つと、人口甘味料で
も舌や胃腸のセンサーで甘みを感ずると、血糖値の上がることを予測し
て、脳が血糖値が上がる前に先回りして「インスリン」を出して準備す
るのですが、人口甘味料の場合は空振りを食うのです。これを繰り返し
ていると、膵臓の負担になって、膵臓病の原因にもなります。

●甘いものを食べると脳が活性化する!?

 太ることを恐れて糖質を摂ることを制限すると、「脳が働かない」と
いうことがよくいわれます。これは本当のことなのでしょうか。
 糖質は、脳の神経細胞の主要な栄養源であり、不可欠なものであるこ
とは確かです。脳というのは、体重の2%ほどなのですが、安静時のエ
ネルギー代謝の18%前後を消費するといわれているのです。1日トー
タルで300キロカロリーは必要なのです。
 1日で300キロカロリーというと、体重60kgの人が時速10キ
ロメートルで30分走って消費するのと同じカロリーなのです。糖質は
1g4キロカローですから、300キロカロリーをすべて賄うには糖質
は1日75g必要になります。
 こういう事実があるので、糖質を制限すると「脳が働かない」という
ことがいわれるのですが、それは間違いです。人間には、糖質が十分に
摂れないときのために、体内で糖質を作るバックアップシステムを持っ
ているからです。
 このバックアップシステムには、次の2つの系統があるのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.肝臓が糖質を蓄えている
         2.肝臓で糖質を作る糖新生
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1の系統は「肝臓が糖質を蓄えている」です。
 人間は肝臓に糖質を蓄えています。体重70キログラムの成人で、約
90gの糖質をグリコーゲンとして蓄えています。糖質供給のメカニズ
ムは次のように働きます。血糖値が低くなると、膵臓からグルカゴンと
いうホルモンが分泌されます。このホルモンの働きで、グリコーゲンは
ブドウ糖に分解されて脳に糖質を供給するのです。
 第2の系統は「肝臓で糖質を作る糖新生」です。
 肝臓で備蓄できるグリコーゲンは最大90g程度なので、半日何も食
べないと、底をついてしまいます。そこで肝臓には体脂肪とタンパク質
から糖質を作り血糖を維持する仕組みがあるのです。これを「糖新生」
というのです。グリカゴンはこの糖新生のプロセスもサポートするので
す。
 食後4〜6時間であれば、グリコーゲンと糖新生で脳の栄養は賄われ
るのです。食間は体脂肪の分解が進むのです。しかし、間食として甘い
ものを摂るとインスリンが分泌されて体脂肪の分解はストップしてしま
うのです。ですから脳に良いからと勝手な理屈をつけて、甘いものを間
食として摂ることは、肥満の原因になるだけです。人間の体は非常によ
くできているのです。
                ──[健康常識に意義あり/03]
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2010年12月16日

●「エンプティカロリー」とは何か

 酒飲みというのは言い訳の多い人種です。なんだかんだと理屈をつけ
て酒を飲み続けるのです。最近は酒飲みの間で次の言い訳がはやってい
るのですが、ご存知でしょうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――
      お酒はエンプティカロリーだから太らない
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「エンプティカロリー」は「カロリーゼロ」ではないのです。タンバ
ク質やビタミンやミネラルなどの栄養素、つまり中身がないのにカロリ
ーだけはあるというのがエンプティカロリーというのです。
 例えば、タンパク質は1グラムが4カロリーですが、タンパク質は体
内で、タンパク質にもブドウ糖にも脂肪にも転換できます。ところが、
アルコールは1グラムで7キロカロリーもありますが、タンパク質にも
ブドウ糖にも脂質になることもできず、熱にだけしか転換できないので
す。だから、アルコールは高カロリーだけど栄養的にエンプティといわ
れるのです。
 お酒のアルコールにはカロリーがあるのです。他の物質とカロリーを
比較すると次のようになります。アルコールはかなり高カロリーです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
    糖質・タンパク質 ・・・・・ 1グラム4キロカロリー
    脂質       ・・・・・ 1グラム9キロカロリー
    アルコール    ・・・・・ 1グラム7キロカロリー
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「ウイスキーや焼酎はエンプティーカロリーだから、つまみを食べな
ければ寝酒で一杯飲んでも太らない」と考えている人がいます。
 これは大間違いです。お酒には、アルコール以外の物質も多く含むの
です。ビールは麦芽、日本酒は米、ワインはぶどうなど、多くの糖質や
アミノ酸などを含んでいるのです。したがって、つまみを食べなくても
太る原因になってしまうのです。
 もう少し正確に述べましょう。私たちの睡眠中の体温は、肝臓が脂肪
を燃やして維持しているのです。寝る前にアルコールを飲むと、アルコ
ールは人体にとって有害物質ですから、肝臓は何をおいてもアルコール
を無害なアセトアルデヒドに変えて、熱と尿と炭酸ガスに変えて放出す
る作業に全力を上げざるを得ないのです。
 そうすると、その間、本来は睡眠中に肝臓で燃やされるはずだった体
脂肪がそのまま残ってしまい、太っていくことになるのです。

●タンパク質が減ると太りやすくなる

 3大栄養素をご存知ですか。3大栄養素は次の3つです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
           1.   糖質
           2.   脂質
           3.タンパク質
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ダイエットをする場合、このうち脂質をどうやって減らすかという発
想に陥りやすいものですが、そういうマイナス思考ではダイエットは失
敗する可能性が高いのです。それではどうすればよいのでしょうか。
 減らすのではなく、増やしたいのはタンバク質なのです。一般的にダ
イエットでは、カロリーが高い肉類や牛乳・乳製品などを控えようとし
ます。しかしこれらは貴重なタンパク質の供給源であり、ダイエットす
ると、タンパク質の摂取量が減少します。
 なぜ、このようなことをいうのかというと、タンパク質が不足すると、
太りやすくなるからです。筋肉は水分を除く固形物のほとんどがタンパ
ク質です。この筋肉を作るタンパク質は、肌が新陳代謝で入れ替わるよ
うにつねに分解と合成を繰り返しているのです。
 タンパク質が不足すると、筋肉の量が減るのです。筋肉の量が減ると
いうことは、基礎代謝の量が減るということです。代謝の量が減ると、
運動をしても脂質が燃えにくくなり、かえって太る原因になるのです。
 代謝のメカニズムは、通勤電車にたとえることができます。通勤電車
が駅に着くと、大勢の乗客が降りてまた大勢の乗客が乗ってきます。降
りる人と乗る人が同数なら、電車に乗っている乗客の総数には変化がな
いことになります。
 同様に筋肉のタンパク質の分解と合成のスピードが等しいと、筋肉の
ボリュームは維持されるのです。筋肉を構成するタンパク質はだいたい
一年ですべて入れ替わるのです。
 タンパク質の摂取量が少ないと、材料不足で筋肉を合成するスピード
が分解するスピードを下回るようになります。電車でいえば、降りる人
よりも新たに乗ってくる人が少ないと乗客の総数が減るのと同じです。
 じっと横になっているときでも消費しているエネルギー代謝を基礎代
謝量といい、一日の総消費カロリーの70%を占めるのです。筋肉は、
基礎代謝量の30%〜40%を担っているので、筋肉が減ると消費カロ
リーがダウンし、太りやすくなるのです。
                ──[健康常識に意義あり/02]
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2010年12月09日

●「フレンチ・パラドックス」というものがある

 「赤ワインは身体に良い」という噂が立って、ワインを飲む人が劇的
に増えたといいます。どこにその根拠があるのでしょうか。
 それは、「フレンチ・パラドックス」がきているのです。「フレンチ
・パラドックス」とは何でしょうか。
 肉類や乳製品などの動物性脂肪の摂取量と心臓病の死亡率には、関係
があります。すなわち、動物性脂肪の摂取量が増えれば増えるほど、心
臓病で亡くなる危険度が高くなるのです。
 しかし、例外があります。それはフランスです。フランス人は動物性
脂肪の摂取量が非常に多いのに、心臓病の死亡率は英国人やドイツ人の
2分の1から3分の1ときわめて低率なのです。これは2005年のデ
ータで調べてみても変化がないのです。これを「フレンチ・パラドック
ス」といいます。
 そのパラドックスを解くカギは「赤ワイン」にあります。フランスで
は、ボルドーやブルゴーニュなどで質の高い赤ワインを生産しており、
フランス人はまるで水を飲むように赤ワインを飲んでいるのです。
 フランスではワインは「飲む主食」といわれ、昼食時に「おかず」の
パンを噛りながらワインを飲む姿はごく日常的な風景となっています。
実際フランス人の1人当たりの年間ワイン消費量は、約67リットルで
世界一なのです。英国人の6・5倍、ドイツ人の2・5倍になります。
日本人と比べると実に70倍になるのです。
 フレンチ・パラドックスの謎を解くため赤ワインの健康成分を探す試
みが続けられ、その結果見つかったのが「ポリフェノール」なのです。
ポリフェノールとは、植物に多く含まれる色素や苦味の成分です。ほと
んどが植物に存在し、その種類は300種類以上といわれています。О
H基というものが、活性酸素を除去する抗酸化効果が強いとされていま
す。それが赤ワインに多く含まれているのです。
 動物性脂肪を摂り過ぎると、血管内に脂肪が溜まってきます。それが
酸化すると、血液が硬く脆くなる動脈硬化が進行し、それによって血管
が詰まると、心臓病が起こります。しかし、ポリフェノールには血管内
に溜まった脂肪の酸化するのを防ぐ働きがあるのです。
 赤ワインを調べてみると、赤い色素成分のアントシアニン、渋みのタ
ンニンそれに果皮や種に入っているレスベラトロールなどの多くのポリ
フェノールが含まれていることがわかったのです。
 フランス人が動物性脂肪を多く摂っているにもかかわらず、心臓病で
死ぬ人が少ないのは、赤ワインを多く摂取することによるポリフェノー
ルの多量摂取にあることは明らかです。

●赤ワインは必ずしも身体によくない

 フレンチ・パラドックスがわかってからというもの、日本でも赤ワイ
ンを飲む人が増えています。健康にいいからといって、下戸で今までワ
インなど飲んだことがなかった人まで赤ワインを飲むようになったとい
います。
 しかし、心臓病を防ぐのが目的で赤ワインを多く飲むのは考えもので
す。なぜなら、アルコールが良くないからです。それに赤ワインといえ
どもアルコールは依存性があって、なかなかやめることができないから
です。
 もうひとつあります。ポリフェノールは赤ワインだけでなく、野菜や
果物、緑茶、コーヒーなどに含まれています。もっとも多くポリフェノ
ールが含まれている14種の食品を上げておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   ●赤ワイン       ●生姜
   ●緑茶         ●ウコン
   ●ゴマ         ●柿
   ●大豆         ●プルーン
   ●りんご        ●イチゴ
   ●タマネギ       ●カカオ(チョコレートやココア等)
   ●ブルーベリー     ●紫芋
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ポリフェノールは熱に強く、壊れにくいので調理する際に気をつける
ことは特にありません。それにポリフェノールは皮の部分に多く含まれ
ています。果物などを食べる際は皮ごと食べられるものを選択するのも
良いでしょう。ブドウなどは皮まで食べられるもの、ミカンやグレープ
フルーツよりもりんごを選ぶようにすると良いと思います。
 または、皮ごと煮てジャムやマーマレードなどに加工するのも良いと
思います。しかし、ポリフェノールを多く含んだものだけを食べる事は
偏った食生活になりやすいので注意が必要です。
 果実などに多く含まれているので、食後のデザート感覚で食べるよう
にすると、うまく取れると思います。赤ワインにも含まれますが、飲み
すぎには注意が必要です。
 「赤ワインは身体に良い」──これは間違いであり、「ポリフェノー
ルは身体に良い」に置き換えて実践して欲しいものです。
              ──[健康常識に異議あり/01]
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2010年12月02日

●2つの原理

 セロトニン神経の権威である有田秀穂先生は、次の2つの原理を対比
させて使っています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
           1.ドーパミン原理
           2.セロトニン原理
――――――――――――――――――――――――――――――――
 有田先生は、これら2つの原理の違いを最近の流行語である「婚活」
を例にとって次のように説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 最近の若い人は、多くの人がドーパミン原理で相手を探しているの
ではないでしょうか。「この人、どれぐらい稼いでくれるのかしら」
「いい生活ができるのかな」というわけです。結局は、すべてをお金
に換算しているわけです。こうしたドーパミン原理で婚活している限
り、いつまで経っても解決はしません。もちろん、女性だけではあり
ません。男性は男性で、「こんな美人と結婚すれば幸せだろうな」
「一緒に連れて歩くと自慢できるぞ」というように、美醜の基準にし
たがって婚括をしてはいないでしょうか。
──有田秀穂著『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ドーパミンというのは、人間の意欲の根源ですが、その源を引き起こ
す力は「報酬」なのです。この「報酬」を前提とする行動を「ドーパミ
ン原理」というのです。したがって婚活をこの考え方でやると、どうし
ても稼ぎとか生活レベルなど、お金に換算してしまう傾向があります。
 しかし、これではたとえそういう理想的な相手が見つかったとしても
幸せな結婚生活が送れるとは限りません。結婚直後こそドーパミンで
「快」の気分になっているかもしれませんが、そのまま最後まで「快」
のままでいられるはずがないのです。
 これに対してセロトニン原理というのは、相手との共感やコミュニケ
ーションを重視する考え方です。結婚というのは、基本的に共感の世界
であり、相手と共感できるかどうかで、幸せな結婚生活が送れるかどう
かが決まってくるのです。有田先生は、共感の世界について次のように
説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 共感の世界というのは、他者とのゆるぎないコミュニケーションに基
 づいています。赤ん坊とはべったりとスキンシップをして、呼吸を合
 わせなくてはなりません。相手の親兄弟はもちろん、親戚づきあいも
 必要でしょう。そうした新しい社会のなかに、どっぷりと入っていか
 なくてはならないのです。 ──有田秀穂著の前掲書より
――――――――――――――――――――――――――――――――

●江戸時代はセロトニン原理社会 

セロトニン原理で行う典型的な活動にボランティア活動があります。
「情けは人のためならず」という言葉があります。相手に情けをかける
のは、相手のためにする行為のように見えますが、結局は自分のために
なる行為なのです。この言葉はそういうことをいっています。これこそ
セロトニン原理に基づく行動であるといえます。
 利益を追求する企業活動においても、必ずしも儲けを目的とせず、多
くの人のためになる企業の社会的責任に基づく活動があります。そうい
う活動が行われると結果的にはその企業自身に見返りがくるというわけ
です。
 NHKの大河ドラマ『龍馬伝』が終りましたが、国際金融経済学者の
榊原英資氏は『龍馬伝説の虚実/勝者の書いた維新の歴史』(朝日新聞
出版)という本の中で「明治という時代を素晴らしい時代という人がい
るが、江戸時代に回帰することが、今、必要である」と述べています。
 有田氏も「江戸時代はセロトニン原理が中心で動いていた時代」と述
べており、開国前の江戸時代を絶賛しています。つまり、江戸時代の社
会というのは共感力を働かせる社会だったといっても過言ではないので
す。
 侍の世界では、自分を捨てて人々のために何かをする「滅私奉公」と
いう価値観があり、江戸時代の共感力をあらわしています。それこそま
さにセロトニン原理そのものです。そういう意味において、江戸時代は
平和にして理想の時代であったともいえるのです。江戸時代を評価する
榊原英資氏は、坂本龍馬を西郷隆盛や桂小五郎よりもインテリであると
し、本の終りを次の文章で締めくくっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 勝や龍馬のような知性派が明治の改革を仕切っていたら、武断派の西
 郷や桂が引き起こした凄惨な戦いや長引いた混乱は、起こらなかった
 かもしれません。歴史にイフ(もしも)はないのですが少なくとも龍
 馬をそうした角度から評価し直す必要があるのではないでしょうか。
 龍馬なら、改革を進めるとともに江戸時代のいい部分を残したかもし
 れません。
──榊原英資著 『龍馬伝説の虚実/勝者の書いた維新の歴史』
(朝日新聞出版)より
 ―――――――――― ──[ストレスと脳の話/13/最終回]
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2010年11月25日

●目標力をつかさどるドーパミン神経

 片目が入ったダルマの置物があります。もうひとつの目は願い事がか
なったときに入れるのです。われわれの脳のなかで「目標力」をつかさ
どっているのは「ドーパミン神経」なのです。
 ドーパミンは交感神経節後線維や副腎髄質に含まれるノルエピネフリ
ンやエピネフリン(ホルモンの一種)という物質とともに生体内アミン
の一種であるカテコラミンという物質のひとつです。
 私たちの食べ物の中に含まれるフェニルアラニンやチロシンというア
ミノ酸がチロシン水酸化酵素によってドーパになり、それがドーパ脱炭
酸酵素の働きでドーパミンになることがわかっています。このドーパミ
ンはさらにドーパミンβ 水酸化酵素という酵素でノルアドレナリンに
なりますし、これはさらにエピネフリンに変わります。
 学生は期末試験でよい成績を取ろうと努力します。そういう行為を脳
内で積極的にバックアップしているのがドーパミン神経なのです。つま
り、ドーパミン神経は、われわれの意欲の源泉であるといえます。その
源を引き起こす力は何かというと、ちょっとわかりにくいかもしれませ
んが、「報酬」なのです。報酬とはある動機によって起こされた行動が
達成されたときに得られるものと考えればいいでしょう。
 人間が日常何かをするときには、意識する、意識しないに関わらず、
必ず何らかの「動機」がその行動の背後にあります。試験に備えて勉強
をしたり、ゲームをしたり、勉強をしたり、スポーツをしたり、ジョギ
ングをしたり、あるいは朝起きて顔を洗うといった習慣などもそこには
「動機」というものがあります。
 ある生理学者が行動中の動物の脳に電極を刺して、どんなときにドー
パミン神経が活動しているかを調べてみたところ、ドーパミン神経は、
そのような行動の動機付けに関連して活動を増すことがわかってきたの
です。われわれのまわりで起こるさまざまな出来事がいいことであれ、
いやで危険なことであれ、とにかく自分にとって意味があって、何らか
の行動を引き起こすような場合には必ずドーパミン神経が活動していま
す。
 つまり、私たちは周囲の環境に適応し、学習しながら、生活するすべ
を会得していきます。言ってみれば人生は学習の連続です。ドーパミン
はそのような学習の強化因子として働いているのです。
 ドーパミン神経は大脳基底核とそれに指令を与える大脳皮質(とくに
前頭前野や帯状回など)に枝を伸ばしてドーパミンを分泌します。そこ
では技能を磨いたり、次第に行動を習慣化したり、そのような個々の行
動をどのような順番に組み合わせて行動を起こすかを企画したり、戦略
を練ったりする働きをしているのです。

●ドーパミン神経は暴走することがある

 ラットを使ったこんな実験があるのです。ラットの脳の特定な場所−
ドーパミン神経のある場所−に電極を入れそこに電気を流す実験です。
といっても人間が電気を流すのではなくて、ラット自身が自ら電流を流
す仕掛けを施しておいたのです。
 それに触れると、電流が流れるスイッチをラットが生活をしているケ
ージの中に設置しておきます。そして、そのスイッチにラットが偶然に
触れたときに電流が流れるようにしたのです。もし、そのときにラット
が不快感を感じたら本能的に二度とスイッチに触れないでしょうし、ど
うということがなければ、スイッチに触れたり、触れなかったりするは
ずです。つまり、スイッチに気を使わないはずです。
 しかし、意外な結果になったのです。ラットは偶然にスイッチに触れ
たあとで、そのスイッチを叩き続けたのです。スイッチが押されて電流
が流れ、ドーパミン神経が刺激されて快を感じると、その快を求めて繰
り返しスイッチを押す結果になったのです。
 この状態が続くと、やがて歯止めが効かなくなり、人間であれば依存
症の状態になってしまうのです。この依存症こそがドーパミン神経の持
つ重大な問題なのです。有田秀穂先生は、依存症について次のように述
べています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 お酒を飲んだときに得られる快感が忘れられずに、お酒を飲まないと
 生きていられないと感じるようになるのがアルコール依存症。パチン
コで大当たりした快感が忘れられず、その夢を追いかけて朝からパチ
ンコ屋に入り浸るというのがパチンコ依存症です。そのほかに薬物依
存症、買い物依存症といった症状もまた、ドーパミン神経の暴走によ
るものです。 
  ──有田秀穂著『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書        ――――――――――――――――――――――――――――――――
 このように依存症というのは、ドーパミン神経が強くなり過ぎること
によって、ドーパミン神経が暴走する結果起きるのです。それでは、こ
の暴走を止めるにはどうすればよいでしょうか。
 残念ながら、ドーパミン神経に人間が働きかけて、その分泌量を調節
することはできないのです。ただひとつだけ、ドーパミン神経の暴走は
セロトニンによって止めることができるのです。セロトニン神経が活性
化されればその暴走を止めることができます。        
                  ──[ストレスと脳の話/12]
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2010年11月18日

●グルーミングとは何か

 「共感」という側面から最も重要なことは次の3つです。今回は最後
として3について考えます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
          1.   涙を流す
          2.呼吸を合わせる
       →  3. グルーミング
――――――――――――――――――――――――――――――――
 グル―ミングとは何でしょうか。英語で、そのスペルは次の通りです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
  grooming ──”groom” に ”ing” を付け足して、”grooming”
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「グル―ミング」という言葉はペットを飼っている人であれば、誰で
も知っています。ペットを撫でることをグル―ミングというのです。現
代はペットブームといわれますが、この現象はそれだけスキンシップの
機会のない孤立した人間が増えていることを意味しているのです。
 しかし、ペットはしゃべらないので、コミュニケーションは成立しな
いという人がいますが、そんなことはないのです。なぜなら、それは、
言語コミュニケーションがないだけであり、前頭前野がつかさどる共感
力を使ったコミュニケーション──非言語コミュニケーション、グルー
ミングがあるからです。
 共感力を使ったコミュニケーションはいろいろあります。仲間と一杯
やるというのもグルーミングですし、女性のよくやっている井戸端会議
もグルーミングの一種なのです。全員が同じ場所にいて、同じ空気を吸
いながら、打ち解けて会話を交わす──これがグルーミングなのです。
 有田秀穂先生によると、非言語コミュニケーションには次の3つがポ
イントになるといっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
           1.   呼吸
           2.心臓の鼓動
           3.   視線
――――――――――――――――――――――――――――――――
 赤ん坊はおなかの中にいるときから、母親の心臓の音を聞き分けてい
ます。そして生まれてからは母親と肌を接しているので、母親の呼吸の
状態を感じているのです。赤ん坊は本能的に母親の呼吸と自分のそれを
合わせるのです。
 そのように呼吸を合わせていると、母親が怒っていれば呼吸が荒くな
りますし、赤ん坊はそれを感じておびえるのです。母親があせっている
ときは赤ん坊も落ち着かなくなりますし、母親がやさしい気持ちでいる
ときは、赤ん坊は安心して穏やかなのです。
 最後に赤ん坊はつねに母親の目を探しています。赤ん坊は母親の目を
見て、それがどこに向いているかを認識しているのです。そういう意味
で乳母車に乗せて赤ん坊を運ぶにはあまり感心しないのです。なぜなら
赤ん坊が母親の視線を感じられないからです。そのため、美智子皇后は
乳母車にバックミラーをつけていつでも母親の視線を見られるようにし
た話は有名です。

●非言語コミュニケーションができない大人の出現

 非言語コミュニケーションができない大人が増えています。どうして
そういう大人が増えたかというと、母親の社会進出が増えて子どもとの
スキンシップが取れないままに過ごす時間が多くなり、子どもは非言語
コミュニケーションを身につける機会が減ってしまうからです。
 現代は物質に恵まれています。とくにテレビは子どもが喜ぶので、母
親は忙しいとつい一人で見せてしまいがちです。これについて、有田秀
穂先生は、次のようにいっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
子どもはテレビを観ていればおとなしいからと、テレビに子守をさせ
る。ところが、テレビというのは一方的なコミュニケーションでしか
 ありません。もり赤ん坊がいくら笑いかけても、テレビは反応してく
 れないのです。そうした環境で日常生活を送っていれば、他人に共感
 することができない人間に育ってしまうのは、ごく自然の成り行きと
 いっていいでしょう。その結果、子どもに脳の発達障害が起こるので
 す。とくに脳のうちでも、人間を人間らしくしている前頭前野という
 のは、人生経験を重ねるにしたがって発達していく部分です。それが
 うまく発達できないわけです。
     ──有田秀穂著 『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 最近の子どもはけんかをしないそうです。けんかをすると、どこでや
めるべきかを自然に悟るのですが、けんかをしないと、その歯止めがわ
からなくなるのです。これは現代の陰湿ないじめが起きる原因になりま
す。
 それではそういう共感力を持っていない大人は、もはや直すことはで
きないのでしょうか。そんなことはありません。セロトニン神経を鍛え
前頭前野を活性化させると、共感力は戻ってくるのです。
                 ──[ストレスと脳の話/11]
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2010年11月11日

●呼吸を合わせることと共感とはどう関係するか

 前回「共感」という側面から最も重要なこととして3つをあげました
ので再現しておきます。今回は2について考えます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
          1.   涙を流す
       →  2.呼吸を合わせる
          3. グルーミング
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「呼吸を合わせる」ことは、共感を鍛える効果的な方法です。日本語
に「気が合う」という言葉があります。私たちは文字通りお互いが呼吸
を合わせることで、共感する能力を活性化させることができるのです。
 元新聞記者でVIP800人に取材したことのあるジャーナリストが
次のようにいっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 気になる人と、良い関係を築きたい場合。その人と、差し向かいで、
 話している時、簡単にできる一つの方法があります。それは相手と、
 吸う息、吐く息を、相手と合わせるんです。文字通り、「呼吸を合わ
 せる」んですね。相手が話をしている時、言葉を口から出す時は、息
 も出していますから、自分も息をゆっくり吐きます。そして、むこう
 が息継ぎをするときに、自分も息を吸います。これを、自然な風に、
 やります。あまり一生懸命、やろうとして、相手に「この人、何して
 いるんだろう?」と、不審に思われないように(笑)。呼吸を合わせ
 ていると、相手と、波長が合いやすくなります。2人のリズムが、合
 いやすくなります。会話は、リズムが大事ですからね。 
    http://ameblo.jp/sonomugi2/entry-10685119005.html
――――――――――――――――――――――――――――――――
 人間は、本能的に「呼吸を合わせる」能力を赤ん坊の頃から身につけ
てきているのです。赤ん坊はお母さんの腕に抱かれているときは、お母
さんの呼吸を肌で感じそれに合わせているのです。
 幼稚園や小学校では、子どもが社会に出て、多くの人とふれあい、共
感してやっていけるためのさまざまなトレーニングがカリキュラムの中
に含まれているのです。
 その典型的なものに「綱引き」があります。綱引きは、皆で声を合わ
せながら綱を引きます。これは呼吸を合わせて共感力を高めているので
す。綱を引いて勝つことが目的なのではなく、同じグループに属する人
が呼吸を合わせて、仲間意識や連帯意識を高める一種の共感トレーニン
グなのです。
 呼吸を合わせると書いて「合気」いいますが、合気道は呼吸を合わせ
ることで、無駄な力を使わず効率良く相手を制する武術です。合気道独
特の力の使い方や感覚を「呼吸力」ないし「合気」などと表現し、これ
を会得することにより、“合理的な”体の運用によって“相手の力と争
わず”に相手の攻撃を無力化し、年齢や性別・体格体力に関係なく「小
よく大を制す」ことが可能になるとしているのです。

●呼吸を合わせる簡単なトレーニングを実施する

 もうひとつ「呼吸を合わせる」典型的なものに、お祭りにおけるお御
輿かつぎがあります。あの「ワッショイ、ワッショイ」という掛け声は
呼吸を合わせるためのものです。このほか、農民が田植えのときに歌う
田植え歌、猟師が綱を引くときの舟歌も呼吸を合わせるために存在して
いるのです。
 有田秀穂先生は、現代において呼吸を合わせる行為として、サッカー
のサポーターを上げ、次のように述べています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 私が興味深く感じるのは、サッカーのサポーターの応援です。サッカ
 ーの試合を観ているとわかりますが、サポーターは試合がはじまって
 から終わるまでの約90分間絶えず立ち上がって歌い続けています。
 「ご苦労だな」と思うかもしれませんが、スタジアムに行って観る限
 り、歌い続けていないとあまり意味がないのです。90分も歌い続け
 ることで、サポーター同士に共感が生まれ、いちいちことばで説明し
 なくてもわかる共感カや直感カが鍛えられていくわけです。もちろん
 それと同時に自分たちのストレス解消にもなることはいうまでもあり
 ません。脳科学的に見ると、サッカーのサポーターの応援というのは
 現代版のお神輿かつぎといっていいかもしれません。
      ──有田秀穂著『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 2人で行う簡単なトレーニングがあります。椅子に座った人の後ろに
立って次の指示をします。「息を吸って」、「止めて」、「吐いて」。
前に座っている人は,からだの中に詰まっているものを吐き出すような
つもりで,大きく息を吐き、それから,ゆっくり自分のペースで呼吸を
する。後ろの人は,自分の呼吸を前の人の呼吸に合わせます。しばらく
これを続けます。
 これを毎日続けると、セロトニンが分泌されるのです。ヨガのように
1人でもできますが、2人でやる方が簡単であり、長続きします。
                  ──[ストレスと脳の話/10]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ストレスと脳の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月04日

●「涙」には3つの種類がある

 前回、共感力と切り替え力が欠如すると秋葉原事件のような恐ろしい
ことが起きるということを述べました。この共感力と切り替え力をつか
さどるのが、セロトニン神経なのです。
 有田秀穂先生は、「共感」という側面から最も重要なこととして、次
の3つのことを上げています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
           1.   涙を流す
           2.呼吸を合わせる
           3. グルーミング
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「涙を流す」です。今回は涙について考えます。「涙」という
のは、目の涙腺から分泌される体液です。眼球の保護がその主な役割で
す。こういってしまうと身も蓋もないのですが、有田秀穂先生によると
涙には3つの種類があるというのです。
 一つは、目が乾くのを防ぐ「基礎分泌」の涙です。
 最近ドライアイの患者が増えているそうですが、それはPCの画面の
見過ぎで、基礎分泌の涙が足りなくなった現象であるといわれます。
 二つは、目に入った異物を流し出す「反射の涙」です。
 これは自分の意思に関係なく、反射的に起きる現象であり、これも眼
球を保護するためのものといってよいでしょう。
 三つは、悲しいときや感動したときに出る「情動の涙」です。
 情動とは、笑ったり泣いたりすることのように、人間が持っている独
特の心の動きをいう言葉です。そういう情動によって出る涙が情動の涙
です。
 これら3つの涙のうち「情動の涙」は、感情の高ぶりによって出るも
のであり、人間しか出ないものなのです。そしてこれは、前頭前野に深
く関係しているのです。それでは、情動の涙はどのようにして出るので
しょうか。

●ウイリアム・フレイの実験

 感情が高ぶったときに、人はなぜ涙を流すのでしょうか。その研究を
した人がいます。生化学者のウイリアム・フレイ二世です。彼は涙は感
情的緊張によって生じた化学物質を体外へと除去する役割があるのだろ
う、という仮説を立てたのです。
 ウイリアム・フレイはその仮説を検証するために実験をしたのです。
実験の内容としては、次の2つの種類の涙を採取してその成分を比較し
たのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       1.涙を誘う映画を見せて収集した涙
       2.同人に玉ねぎをむかせ収集した涙
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ウイリアム・フレイは、自らも被験者になってやってみたのです。8
0人あまりの被験者の涙の比較は、感情による涙は、刺激による涙より
も、より高濃度のタンパク質を含んでいるということを示していたので
す。フレイはその実験内容を含む著書を1985年に出版しています。

●「情動の涙」を流すことは脳にプラスである

 大人になると、めったに人前で涙を見せることはなくなります。悔し
涙や悲しみの涙であっても流せなくなります。しかし、これはストレス
を貯めることになるのです。
 これに対し、映画や良いドラマを見て自然に流れる涙──これこそ情
動の涙なのです。この情動の涙はストレスや自我というものを通り越し
相手に関する共感によって流す涙なのです。有田秀穂先生は次のように
いいます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「情動の涙」は、前頭前野が発達した大人になってはじめて流せるも
 のであり、幼い子どもには流すことができません。なぜなら、この涙
 の根本にあるのは「他者への共感」だからです。さまざまな人生経験
 を積むことによって銀幕やテレビ画面の向こうにいる人間の心境を思
 いやることができるようになるのです。
──有田秀穂著『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 医学的にいうと、涙が出る直前の状態というのは、交感神経が高まっ
て興奮状態にあるのです。そして涙が出た瞬間、一気に副交感神経に切
り替わるのでその落差は大きいのです。脳がこの状態になると、しばら
くは元に戻れない状態になるといいます。
 こういう場合は、なるべく涙を流す方がよいのです。もし、涙を流す
まいとして我慢したり、涙が出そうな寸前で終わらせると、交感神経が
高まっているのをストップしてしまうわけで、これはストレスとなり、
脳にとってはマイナスの影響が出てしまうことになります。有田先生は
自然に涙の出る映画や、ドラマのDVDを集めてときどき見ているそう
です。               ──[ストレスと脳の話/09]
posted by キーヘルス at 03:22| Comment(0) | TrackBack(0) | ストレスと脳の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月28日

●ドーパミンとノルアドレナリンの違い

 前回、前頭前野の4つの働きと対応している神経についてその関係を
示しましたが、再現して解説します。
――――――――――――――――――――――――――――――――
    1.強い意欲を持つ ・・・・    ドーパミン神経
    2.相手に共感する ・・・・    セロトニン神経
    3.物事に集中する ・・・・ ノルアドレナリン神経
    4.切り替える能力 ・・・・    セロトニン神経
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1の働きは「強い意欲を持つ」ことです。
 人間は何かの目標を目指して一生懸命に努力するというメカニズムが
脳に仕組まれているのです。ドーパミンという神経伝達物質は、私たち
に心地良さや快感をもたらします。前頭前野にドーパミンが分泌される
と、「快」の情動が引き起こされるのです。
 ドーパミンと性格とは関係があるのです。DNAによって、脳内にあ
るドーパミンのレセプター(受容体)のタイプが異なっていて、これが
好奇心などの性格に影響しているのです。ドーパミン・ハイのタイプの
人は、「当たり前のこと、日常的なもの」にすぐ飽きてしまって、「変
わったこと、新しいもの」を求める傾向が強いのです。ドーパミンの分
泌が強すぎると、問題が起きる可能性があるのです。
 第2の働きは「相手に共感する」ことです。
 人間は必ずしも言語を用いないでも相手の心を読むことができます。
「以心伝心」という言葉はそういうことを意味しているのです。これは
共感力の源泉であり、セロトニン神経が深く関係しています。
 他者とのコミュニケーションには次の2つがあるのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       1.  バーバルコミュニケーション
       2.ノンバーバルコミュニケーション
――――――――――――――――――――――――――――――――
 バーバルコミュニケーションは言語によるコミュニケーションのこと
でありノンバーバルコミュニケーションは非言語によるコミュニケーシ
ョンを意味するのです。これは、相手のしぐさ、表情、動作などから、
その人の心の中、意図、目的を読み取ることをいうのです。
 現代はどちらかというと、バーバルコミュニケーションが発達し、非
言語コミュニケーションが弱くなっています。政治家や評論家などをテ
レビで見ていると、口数が多いだけで、相手の立場や状況を思いやる想
像力が欠けているように思います。それは共感力の不足を意味している
のです。

●共感力と切り替え能力が欠如すると恐ろしいことが起きる

 第3の働きは「物事に集中する」ことです。
 集中力はテキパキと仕事をこなす能力のことです。このとき、前頭前
野の左右外側にノルアドレナリンが分泌されているはずです。ノルアド
レナリンは、ドーパミンと同じく興奮物質ですが、もたらす興奮の質が
違うのです。ドーパミンは既に述べたように「快」をもたらすのですが
ノルアドレナリンは「怒りによる興奮」であるとか、「危険に対する興
奮」をもたらすのです。
 ノルアドレナリン神経が活性化される原因は、体の内外から加わるス
トレス刺激なのです。生命に何かの危険が及ぶと、ノルアドレナリンは
大量に分泌されるのです。これによって集中力を高めて人間はこれまで
さまざまな危機を乗り超えてきたのです。
 第4の働きは「切り替える能力」です。
 切り替える能力とは、自分の生き方や主義を途中で思い切って切り替
えて、柔軟にこれまでの生き方を修正する能力です。この能力は、共感
力と共にセロトニン神経が深く関与しているのです。有田秀穂先生は、
この共感力と切り替える能力がうまく機能しなかった悲惨な例としてあ
の秋葉原無差別殺傷事件を上げて、次のように述べています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 2008年6月8日、東京の秋葉原で悲惨な事件が起こりました。2
 5歳の男が、トラックではねる、ナイフで切りつけるなどして、17
 人に危害を加え、そのうちの7人が亡くなったという無差別殺傷事件
 です。私は、事件についての報道を読み進めるにつれて、まさに事件
 の背景にあるのが共感カの欠如だと実感しました。一人きりで生活し
 ていた犯人は、誰にも読まれるあてのないブログをひたすら書き続け
 て発信していたといいます。ただでさえ他人とのコミュニケーション
 が希薄なうえに、数少ないコミュニケーションを言語だけに頼ってい
 たわけです。いや、もうそれはコミュニケーションとは呼べないもの
 でした。なにしろ、読者からの反応を期待しないで、一方通行で発信
 するだけでよしとしていたからです。
      ──有田秀穂著『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、共感力を失っているのは、事故で前頭前野をなくした
人だけでないことがよくわかります。 ──[ストレスと脳の話/08]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ストレスと脳の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月21日

●大脳の前頭前野はどのような働きをするか


 「心の目」というものがあります。2つの目とは違うもうひとつの目
──第3の目というべきものです。大脳はその位置によって次の4つに
分かれます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       1.前頭葉       3.側頭葉
       2.頭頂葉       4.後頭葉
――――――――――――――――――――――――――――――――
 前頭葉の中で一番先頭の部分を「前頭前野」といいます。ちょうど額
の部分と考えればよいでしょう。脳科学では、他人とコミュニケーショ
ンをとったりそれによって共感を覚えたりする部分は前頭前野の額の中
央に位置する「腹内側」(ふくないそく)という部分がそれを担うとさ
れています。
 この腹内側が何らかの事故で機能しなくなると、何が起こるでしょう
か。
 こんなケースがあります。これは実話ですが、交通事故によって、前
頭前野に杭が刺さって、その機能が失われた人がいるのです。しかし、
大脳の他の部分は異常はなかったのです。これについて、有田秀穂先生
は次のように説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 実は、表面的には何ひとつ変わっていないのです。手足の動きにも不
 自由はなく、目も開いており、ことばも普通に話せる。食事も自分で
 とれ、排泄もできる。要するに、一見したところは事故前と何も変わ
 っていなかったのです。それだけを見れば、生きていくうえでの大き
 な障害はないといえるかもしれません。ところが、大きな問題がある
 ことがわかりました。なかでも重要なのは、社会生活ができなくなっ
 てしまったこと。具体的にいうと、他人とのコミュニケーションがと
 れなくなつてしまったのです。その人は、確かにことばを話すことが
 でき、他人のことばを理解することもできました。ところが、相手の
 気持ちをくみ取ることができなくなってしまったのです。
     ──有田秀穂著 『ストレスに強い脳、弱い脳』/青春新書
――――――――――――――――――――――――――――――――
 人間のような霊長類は、知能が発達しているので、一人でも生活して
行けるように考えられますが、実は人間は群れのなかでしか生活ができ
ないのです。そのため「人間」は「人と人の間」と書くのです。
 仲間と一緒に生きるためには、コミュニケーションは不可欠であり、
言葉だけでなく、総合的な情報から相手の気持ちを読みとる「心の目」
が不可欠なのです。したがって、前頭前野に損傷を受けて「心の目」を
失った人には通常の社会生活はできないのです。

●前頭前野の4つの働きと3つの神経

 前頭前野には次の4つの働きがあります。この4つの働きによって、
人間は人間らしく生きられるのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
          1.強い意欲を持つ
          2.相手に共感する
          3.物事に集中する
          4.切り替える能力
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これら4つの機能はすべて前頭前野でコントロールしているのです。
どの部分が何を担当しているか簡単に説明します。
 1の「強い意欲を持つ」部分は、前頭前野の内側、ちょうど目の上の
部分です。2の「相手に共感する」は、額の中央部、すなわち、腹内側
の部分です。3の「物事に集中する」は腹内側の左右外側の上方部分、
4の「切り替える能力」は左右のこめかみに当たる「腹外側」と呼ばれ
る部分です。
 これら4つの能力がどのように発揮されるかは、神経伝達物質がどの
程度脳内に分泌されるかによって左右されるのです。というのは、脳内
には膨大な神経のネットワークがあり、互いに神経伝達物質をやり取り
しながら、そのときどきの心や神経状態をコントロールしているからで
す。ここまで説明してきたセロトニンもそうした神経伝達物質のひとつ
であり、セロトニンを使って情報を伝達しているのがセロトニン神経な
のです。
 「ドーパミン」という言葉を聞いたことはないでしょうか。ドーパミ
ンも神経伝達物質のひとつです。ドーパミンを使って、情報伝達を行っ
ている「ドーパミン神経」というのがあるのです。上記の前頭前野の4
つの働きと神経との関わりは次のように対応しているのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   1.強い意欲を持つ ・・・・    ドーパミン神経
   2.相手に共感する ・・・・    セロトニン神経
   3.物事に集中する ・・・・ ノルアドレナリン神経
   4.切り替える能力 ・・・・    セロトニン神経
                ──有田秀穂著の前掲書より
――――――――――――――――――――――――――――――――
                  ──[ストレスと脳の話/07]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ストレスと脳の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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