2010年01月14日

●豚由来の新型インフルエンザ――A型、H1N1亜型

 2009年以降世界的に流行している新型インフルエンザ――A型、
H1N1亜型は、豚由来のインフルエンザですが、豚由来のインフルエ
ンザが流行したのは今回がはじめてではないのです。
 今から34年前の1976年2月5日のことです。米国東海岸のニュ
ージャージー州にある米軍の陸軍基地フォート・ディスクで19歳の二
等兵が病院に担ぎ込まれたのです。ところが、懸命な治療のかいなく、
この兵士は急死してしまったのです。
 しかし、事態はこれにとどまらなかったのです。彼の周辺にいた4名
の兵士が次々に同じ症状を訴えて入院する騒ぎになったのです。原因不
明の感染症と判断した州の公衆衛生担当者は、検体をCDC――アメリ
カ疾病管理予防センターに送付して調査を依頼したところ、死亡した兵
士から豚由来のH1N1亜型インフルエンザウイルスが発見され、基地
内にいた500人以上が感染していたことが判明したのです。
 当時ヒトの間で流行していたインフルエンザウイルスはH3N2亜型
(香港型)だけだったので、H1N1亜型は新型ウイルスであり、この
まま放置して感染が広がると、パンデミックに進展する危険があったの
です。
 そこで、CDCは、当時のフォード大統領に対してパンデミックを未
然に食い止めるために、国民全員を対象にワクチン接種の必要性を訴え
たのです。その結果、大統領はこの勧告を受け入れ、前例のない規模の
ワクチン接種計画が実施に移されたのです。
 そのために1億人分のワクチンが用意され、約4000万人にワクチ
ンが接種された段階で予想外のことが発生したのです。予想外のことと
は、インフルエンザの感染は思ったほど広がらず、その代わりワクチン
接種者の一部から、ギランバレー症候群を発症するケースが続発したの
です。
 ギランバレー症候群とは、筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に
力が入らなくなる難病で、昨年亡くなった女優の大原麗子さんがかかっ
た病気です。結局、このギランバレー症候群で32人が死亡し、数百人
に後遺症障害が残ったのです。そのため、インフルエンザの予防接種は
中止に追い込まれることになったのです。
 結局、この豚由来のインフルエンザ騒ぎは、死者1名、数名の重傷者
と、それをはるかに上回るワクチン禍の犠牲者を出して終わったのです。

●「種の壁」を超える感染が広がる

 豚におけるインフルエンザは、1918年にもイリノイ州の農場での
発生が報告されています。ちょうど同時期にヒトとヒトの間で「スペイ
ン風邪」によるパンデミックが発生したので、ヒトで大流行したスペイ
ン風邪が豚にも伝播したのか、それとも逆に豚のウイルスがヒトに伝播
し、スペイン風邪を引き起こしたのかはわかっていないのです。
 はっきりしているのは、2009年にパンデミックを起こした豚由来のインフルエンザウイルス――A型、H1N1亜型は1918年に豚で
流行したウイルスの流れを組んでいることです。
 A型インフルエンザは、ヒト、豚、鳥のほかに、猫、馬、犬、虎、ミ
ンク、アザラシなどの幅広い生物種がかかる人獣共通感染症であり、鳥
→豚、ヒト→豚、豚→ヒトというように種を超えた感染を引き起こして
さまざまな遺伝的バックグラウンドを持つインフルエンザウイルスが絶
えず登場しています。
 最近米国では、馬に感染したインフルエンザウイルスが、ドックレー
ス用の競争犬に感染しそれがペット用の犬にも感染が広がっています。
今のところ日本では感染が広がっていませんが、日本でも流行する可能
性があります。犬の場合、ヒトとは濃密な接触をするので、犬→ヒトと
いう、新たな種を超えた感染が起きる可能性も高いのです。
 「種の壁」を超える感染は容易には行ないのです。とくにヒトのよう
な高等生物では、気の遠くなるような長い歳月を経るうちに遺伝子変異
が少しずつ蓄積して、はじめて新しい形質が生まれる。しかし、インフ
ルエンザウイルスは非常に早く進化できるのです。
 インフルエンザウイルスは、他の生物種であれば、何百万年もかかる
ような進化を、年単位、月単位でやり遂げてしまうのです。なぜ、イン
フルエンザウイルスはそんなに速く進化できるのであろうか。
 この「変異」について、専門家は次のように解説しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 鍵を握るのが遺伝物質の違いだ。高等生物は遺伝情報をDNAに記録
しているのに対して、インフルエンザウイルスは<遺伝情報をRNA
に記録している。生物やウイルスはDNAやRNAを複製しながら子
孫を増やしていくが、その際に一定の割合でコピーミスが生じる。D
NAの場合は、DNAを複製するDNAポリメラーゼという酵素にコ
ピーミスを修復する機能があるのだが、RNAを複製するRNAポリ
メラーゼにはそれに相当する機能がない。そのためRNAウイルスで
はヒトに比べて1000倍から1万倍の確率で遺伝子変異が生じる。
                   ――河岡義裕・堀本研子著
『インフルエンザパンデミック/新型ウイルスの謎に迫る』/講談社刊
―――――――――――――   ―― [インフルエンザの話/05]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | インフルエンザの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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