2010年01月28日

●インフルエンザに対するメディア論調の間違い

 新型インフルエンザをめぐる各メディアの報道で気になるというか誤解を与えやすい次のような論調があります。
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 新型ではあるが、弱毒性──低病原性であり、季節性インフルエンザ
 の危険性とさほど変わらない。
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 この論調は2つの点で間違っています。
 1つは、低病原性だからといって、新インフルエンザが季節性インフルエンザと同等の危険性しかないというのは間違っています。低病原性であっても、ひとたびパンデミックが起きると、低病原性であっても大きな被害が起きるからです。
 なぜなら、新型ウイルスは人類の大部分が感染したことのない抗原タンパク質を持っているので、その強力な「伝播力」によって、かなりの確率でほとんどの人が感染、発症してしまうのです。そのため致死率が低くても、分母となる感染者数が多いと、多くの犠牲者が出ることになります。
 もう1つは、新型インフルエンザの病原性が急に強くなることがあるということです。世界中で、現在大流行している新型インフルエンザは、スペイン風邪ウイルスと同じH1N1亜型なのですが、スペイン風邪の致死率も流行が始まった春頃はそれほど高くはなかったのです。しかし、第2波が流行した秋には致死率は5倍も高くなっていたのです。
 なぜ、これほどスペイン風邪の致死率は高くなったのでしょうか。
 スペイン風邪のウイルスは、ヒトの体で感染・増殖を繰り返しているうちに強い病原性を獲得した可能性があるのです。これと同じことが現在流行している新型ウイルスで起こっても不思議ではないのです。
 インフルエンザウイルスというものは絶えず変異を繰り返しているのです。そのため病原性が変化することはよくあることなのです。ごくわずかなアミノ酸変異で、突然病原性の強いウイルスに変化することがあるのです。
 ここで留意すべきことは、ウイルスを構成する物質には毒性がないということです。病原性の強いウイルスでも病原性の弱いウイルスでも化学的な組成はほとんど同じです。それでは、病原性の強弱は何によってもたらされるものなのでしょうか。
 『インフルエンザパンデミック』(講談社刊)の著者の一人である河岡義裕氏は、同書でこれについて次のように説明しています。
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 端的にいえば、ウイルスが増殖できる臓器の種類と増殖速度の違いで
 ある。低病原性鳥インフルエンザウイルスはニワトリの呼吸器や腸管
 でしか増えないのに対して、高病原性鳥インフルエンザウイルスはニ
 ワトリの脳を含む全身の細胞で増殖する。前者を「局所感染」、後者
 を「全身感染」という。ウイルスが増殖できる「組織」が多ければ多
 いほど、宿主がダメージを受けるのは当然だ。
 ――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/新型ウイ
 ルスの謎に迫る』(講談社刊)
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●スペイン風邪の恐ろしさを知れ

 スペイン風邪がどれほど恐ろしいものかという認識には温度差があります。何しろ今から90年前の出来事ですから、その体験者はほとんどおらず、伝承のみでしか伝わっていないからです。
 しかし、文書として遺されたものは多くあります。河岡義裕/堀本研子著の前掲書ではリチャード・コリヤー氏の次の文を掲載しています。
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 ケープ・タウンで、輸送軍団の運転手をしていたチャールス・ルイス
 は、休暇で、5キロメートル離れた海岸の両親の家へ行くために電車
 に乗ったが、その電車の車掌は、発車の合図をしようとして、プラッ
 トフォームに立ったとき、倒れて、そのまま死んでしまった。それで
 も、ルイス自身が発車係を務めて、電車は動き出したが、何分も経た
 ないうちに、次々に乗客が倒れて死んでいった。そのため電車は、ま
 だ生暖かい死体を市の馬車に渡すために5回も止まらなければならな
 かった。しかも、海岸までの道のりの4分の3まで行ったところで、
 運転手も前に崩れるように倒れて死んでしまい、結局ルイスは、まだ
 生きていることを感謝して、家まで歩いたのである。
                   ――リチャード・コリヤー著
   『インフルエンザ・ウイルス スペインの貴婦人/、清流出版刊
――――――――――――――――――――――――――――――――
 スペイン風邪にかかると、40度を超える高熱が出て重度の肺炎にかかって肺水腫を起こすのです。そして多くのケースでは、発症してから数日で呼吸困難に陥り、死にいたるのです。
 スペイン風邪の流行当時、第一次世界大戦の最中だったので、事実は伏せられ、それが被害を大きくしたのです。スペイン風邪にかかった兵士が戦場を転戦する過程で世界中に伝播したからです。
―――――――――――――― ―― [インフルエンザの話/07]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | インフルエンザの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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