2008年02月21日

●血圧の新ガイドラインは信頼に足るものか

●血圧の測定法は100年前から変わらない

 現在普及している家庭用の血圧計のほとんどはデジタルですが、医師は水銀血圧計を使っています。この方が正確に測定できるからです。この水銀血圧計は、いつ、誰によって発明されたのでしょうか。
 上腕部にカフというものを巻きつけ、動脈を圧迫して血圧を測定する現在と同じスタイルの水銀血圧計は、イタリアのシピオーネ・リバ・ロッチという医師によって1896年に開発されたのです。
 そして、水銀血圧計を使って血圧を正確に測定する方法が考案されたのは、1905年のことで、考案者はロシアの外科医、ニコライ・セルゲヴィッチ・コロトコフという人です。今から約100年前のことです。
 コロトコフは軍医をしていたことがあり、傷病兵の血管外科手術に携わる頻度が多かったので、血管音をつねに聴診していたのです。そういう経験から、血圧測定に聴診器を利用する方法を案出したのです。そのため、カフで血管を圧迫し、カフの先の動脈に聴診器を当てて少しずつカフの空気を抜いていくと最初に聞こえている血管の拍動を「コロトコフ音」と呼んでいるのです。
 このリバ・ロッチの発明による水銀血圧計を使って、コロトコフ聴診法で血圧を測る方法は現在ほとんどの病院で行われており、それが100年も続いていることから考えても、この血圧測定法がいかに優れた方法であるかがわかります。廉価、小型、簡便、正確がすべて揃っているからです。

●新ガイドラインの根拠は何か

 前回述べたように、現在のガイドラインでは、降圧剤を使って血圧を下げる場合の目標値はかなり低く設定されています。再現しておきましょう。
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        最大血圧(上) ・・・ 130〜139
        最小血圧(下) ・・・  85〜 89
―――――――――――――――――――――――――――――――――
 これはかつての基準と比べるとかなり低い数値に設定されていますが、その根拠になったのは、「HOT研究」という調査が基になっているのです。この調査は、スウェーデンの降圧剤メーカー、アストラ社が中心となり、その他数社の製薬会社が共同出資し、国際高血圧学会の支援の下に実施されたのです。
 この調査は世界26ヶ国、約1万9000人の高血圧患者を平均3.8年間にわたって追跡調査したもので、これまでの高血圧臨床研究の中で最大の規模を誇る調査となっています。そしてその結果は1998年の第17回国際高血圧学会で発表され、同年世界的評価の高い医学雑誌『ランセット/Lancet』に発表されています。
 調査では、最小血圧が平均で105(100〜115)であった患者を、降圧目標として、90、85、80の3段階のグループに分けて降圧剤の投与を行い、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器合併症にかかる率がどうなるかについて調査したのです。さらに、死亡率全体がどうなるかも調べています。
 降圧剤の使用方法としては、第1段階のカルシウム拮抗剤は全員に投与し、あとは目標血圧に達するまで、第2段階以降の降圧剤を追加処方するという方式で行われたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
       第1段階:カルシウム拮抗剤(フェロジピン5mg)
       第2段階:ACE阻害剤
       第3段階:β(ベーター)プロッカー
       第4段階:上記降圧剤の量の増加と利尿剤をプラス
―――――――――――――――――――――――――――――――――
 調査では何がわかったのでしょうか。
 ポイントは、最小血圧を90以下を目指して下げるか、さらに降圧剤を追加して85、80以下まで下げるか――これら2つの選択なのです。
 心筋梗塞になった人の割合でみると、90以下よりも85以下、80以下と降圧剤で血圧を低くコントロールした場合の方が低いのです。具体的には1万人当たり10人少ないのです。しかし、それは心筋梗塞になる人の割合であって、心筋梗塞で死亡する人の割合ではないのです。心筋梗塞を含む重い心臓病や脳卒中で亡くなる割合についてはほとんど差がなかったのです。
 それどころか、最も重要な治療目標である死亡率全体で見ると、85以下や80以下よりはむしろ、90以下を目標としてゆるやかに下げたグループの方が実際に死亡する人は少なかったのです。
 しかも80以下、85以下、90以下の順に死亡率が下がっているのです。それぞれの死亡者数を1年間1万人当たりの人数に換算すると、それぞれ88人、82人、79人になります。88人と79人の差は9人ですが、これは血圧を下げすぎると、1割以上も死亡者が多くなることを示しています。心筋梗塞になる人が1万人当たり10人減っても、死ぬ人が9人もふえたのです。そうであるとしたら、血圧は90以下を目標としてゆるやかに下げた方がよいということになります。このように問題の多いこのHOT研究を根拠に、新しい基準がWHOと国際高血圧学会で採用され、日本でもそれがガイドラインとして採択されているのです。                    
posted by キーヘルス at 04:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 血圧の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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