2000年の新ガイドライン以前においては、高血圧と診断され、降圧剤を飲まされている人は、最大血圧(上)は150、最低血圧(下)は100を超えないようにといわれていたのです。これは、1993年のWHOと国際高血圧学会の合同委員会によるガイドラインに基づく治療方針なのです。
それが2000年になると、新ガイドラインにより、突然最大血圧(上)は140未満に、最小血圧(下)は90未満にコントロールするというように変わったのです。これによって新たに高血圧患者の数が増え、既に高血圧の人は多くの場合、降圧剤の数が増やされたのです。
既に新ガイドラインの医学的根拠については、前回もお伝えしたように数々の疑問点が出されています。『プレスクリル』というフランスの医薬品情報誌があります。この雑誌社は製薬会社の援助を一切受けず、中立性の高い雑誌として評判なのですが、1999年に次のタイトルの論評を発表して話題になったのです。
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「高血圧に関するWHOの欠陥ガイドライン――誰がその評価を傷つけたのか」 ――『プレスクリル・インターナショナル』Vol 8 No.42
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この論評の結論は、ガイドライン改訂作業の裏で糸を引いていたのは、多国籍企業である製薬会社であるとしています。そして、WHOの不可解な対応として次の事実を指摘しています。
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・WHO/国際高血圧学会の新ガイドラインは、1999年2月4日に
ロンドンで発表された。しかし、これに先立つ数時間前に、WHOは
「緊急情報――ロンドンで発表されるWHOの報道資料に関して」と
題する記者発表資料を配布し、この中で「1999年の新ガイドライ
ン」はWHOとは無関係であるとし、「WHOの同意なしに製薬企業
がスポンサーとなって新指針を配っている」と批判した。
・ところが、奇妙なことに、翌日の2月5日になると、WHOはガイド
ライン作成に対する批判をやめた。そして新ガイドラインの科学的妥
当性を認め、記者会見の運営方針だけを批判した。
――浜六郎著、『高血圧は薬で下げるな』より。角川ONEテーマ21
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●全年齢同一基準の不可解――考慮されていない加齢による高血圧
高血圧のガイドラインで一番納得性のないのが、ガイドラインが年齢別ではないことです。若い人も年寄りもすべて同じ基準なのです。血圧だけは年齢に関係ないのでしょうか。
血液には、酸素や栄養素を全身の細胞に運ぶ重要な役割があります。しかし、歳をとると血液の循環が悪くなるものです。そうすると、酸素や栄養分を細胞の隅々まで送り届けるのが困難になります。
そこで、心臓は送り出す圧力を強くして血圧を上げ、栄養を全身に送り届けようとするのです。ですから、加齢に伴い、血圧が多少上がることは当たり前のことなのです。そういう状況で、血圧を無理に下げてしまうと、何が起こるでしょうか。細胞に必要な栄養が届けられなくなってしまうのです。
血圧が高くなる原因にはいろいろあります。運動不足や肥満、塩分のとりすぎや栄養バランスの悪い食事、それにストレスなどその原因はいろいろです。本来であればその原因を特定してそれを改善し、それでも下がらない場合にはじめて降圧剤を使用べきである――『高血圧は薬で下げるな』の著者で医師の浜六郎氏はこう警告しています。
ところで、新ガイドラインのような外国の調査ではなく、対象者を日本に限定した調査はないのでしょうか。
驚いたことに日本には、正確な比較調査の研究データが少ないのです。しかし、地域住民を対象とする検診と地道な追跡調査を組み合わせた疫学調査はよく行われています。
その中にあって、「NIPPON研究」という貴重な調査があるのです。これは上島弘嗣・滋賀医科大学教授たちが行った調査ですが、そのオリジナル報告書には驚くべきデータが示されているのです。
その調査は1980年に国民栄養調査の対象になった人たちを14年間追跡して調べています。調査時点で降圧剤の使用の有無を聞いているので、降圧剤を使用している人とそうでない人に分けて分析してあるのです。
この調査の最大の特色は、死亡率だけではなく、人の助けを借りずに身の回りのことができるかどうかという「自立者」の割合をきちんと出しているところにあります。
つまり、NIPPON研究では、自立者の割合が血圧別に報告されているのですが、降圧剤を飲んでいる人とそうでない人の自立者の割合では、降圧剤を飲んでいない人の方が自立率が明らかに高いというデータが出ているのです。このNIPPON研究のエッセンスなどについては、次回にご紹介したいと思います。