2009年12月10日

●インフルエンザについてどれほど知っているか

 インフルエンザの感染がなかなかとまらないでいます。しかし、それ
でいて今のところインフルエンザによる死亡率が一定の範囲におさまっ
ているところから国民の間には根拠のない安心感が生まれ、それに伴い
若干の油断が生じつつあるようです。「なぁんだ!風邪と一緒じゃない
か」、「だいたい日本政府のやっていることは大袈裟なんだ」というよ
うにです。
 しかし、これは大きな間違いです。今回のインフルエンザの死亡率が
この程度でおさまっているのは、各国政府が高病原性鳥インフルエンザ
ウイルスによるパンデミック(大流行)を想定して対策を進めてきたか
らなのです。
 確かに学校閉鎖や保育園の閉鎖によって親が出勤できず、ただでさえ
厳しい雇用情勢を一層悪化させたことや、各種集会の中止による経済的
な被害が出たことから、政府の対応を過剰として非難する声が多く出た
ことは事実です。しかし、そうしたからこそ、インフルエンザのさらな
る拡大を事前に防げたともいえるのです。
 しかしインフルエンザについてあなたはどれほどご存知でしょうか。
いわゆる「風邪」のようなものと誤解していないでしょうか。インフル
エンザを防ぐにはマスクや手洗い、うがいの励行などに加えてインフル
エンザに対して正しい深い知識を持つことが大切なのです。そこで、し
ばらくインフルエンザについてお話しすることにします。

●WHOはなぜパンデミック宣言を躊躇したのか

 2009年6月11日のことです。世界保健機関(WHO)のマーガ
レット・チャン事務局長は、ジュネーブで緊急記者会見を開き、新型イ
ンフルエンザの警戒水準を「フェーズ6」に引き上げる宣言をしたので
す。この「フェーズ6」というのは、新型インフルエンザの警戒水準の
最高ランクであり、パンデミック──世界的大流行を意味するランクな
のです。
 実はWHOとしては、5月の時点で北米だけでなく、英国、スペイン
などでも新型インフルエンザの感染者が急増していることを把握してい
たのですが、なぜかWHOは、パンデミック宣言に慎重であったのです。
 それには2つ理由があります。
 1つは、今回の新型インフルエンザウイルスがA型のH1N1亜型で
あったことです。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つ
に分類されるのですが、パンデミックを起こす可能性があるのはA型で
す。
 しかし、タイプがH1N1亜型であり、これは1918年に世界で大
流行しスペイン風邪ウイルスと同じ亜型であったのです。このウイルス
はその末裔が依然として毎年のように流行を繰り返しており、ほとんど
の人が免疫を持っていると考えられることです。それなら、パンデミッ
ク宣言を少し待って様子を見た方がよいのではないかという判断が働い
たのです。
 スペイン風邪というのは、規模、死亡率がいずれも大きく、感染者数
が6億人に及んで、2000万〜4000万人の死者を出し、それが第
1次世界大戦終結の遠因にもなったともいわれているのです。
 2つは、冒頭にも述べたように、日本をはじめ各国政府は、高病原性
鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックを想定して対策をとって
いるので、下手にパンデミック宣言をすると世界中が混乱する──WH
Oはこのように考えたものと思われます。

●WHOの2つのシナリオのひとつは崩れる

 WHOとしては、今回の新型インフルエンザについて、2つのシナリ
オを立てていたのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1のシナリオ:比較的早期に感染拡大がおさまり、やがてウイルス
は姿を消す
 第2のシナリオ:感染拡大が続き、夏場の一時的な収束期を経て冬に
大流行する
――――――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、12月に入ってもインフルエンザは収束の兆しがない状態で
あって現在では第2のシナリオに沿ったパンデミックになることは確実
です。このシナリオによると、最悪の場合は3000万人、日本人の4
人に1人は感染する可能性があるとしています。
 これに関連して、WHOのフクダ事務局長補代理は次のように警告し
ているのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 新型インフルエンザが世界的な大流行に発展した場合、今後2年以内
に世界人口の20〜40%程度が感染する恐れがある。
──河岡義裕/河本研子著/ブルーバックスB1647
『インフルエンザ パンデミック/新型ウイルスの謎に迫る』
――――――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも新型インフルエンザウイルスとは何なのか──次回はこうい
う基本的なことを迫っていきます。
―― [インフルエンザの話/01]

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2009年12月17日

●インフルエンザとは何か

 インフルエンザとは何でしょうか。
 インフルエンザとは、多い年で、日本人の10人に1人がかかる、感
染症であるといってよいと思います。病源体は「インフルエンザウイル
ス」といってその大きさは直径100ナノメートル──1万分の1ミリ
メートルの大きさのウイルス病源体です。
 感染すると数日の潜伏期間を経て発症し、38度以上の発熱、頭痛、
全身の倦怠感、筋肉・関節痛、咳、鼻水などの症状があらわれます。し
かし、季節性のインフルエンザであれば一週間程度で通常回復します。
 インフルエンザウイルスの大きさは、ウイルスとしては中程度ですが
このウィルスが警戒されるのは、その「伝播力」にあります。おそらく
地球上に存在するあらゆるウイルスの中で、一番伝播力が強いといわれ
人間はこのウイルスから逃げることは困難であるといわれます。
 ところで、インフルエンザと風邪はどう違うのでしょうか。
 インフルエンザの症状は風邪そのものですが、自覚症状からインフル
エンザにかかったか、風邪なのかを分けることは通常困難です。
 風邪の概念は漠然としています。「風邪は呼吸器疾患の総称である」
といわれていますが、これではあまりにも漠然としています。風邪は、
さまざまな感染症を集めた「症候群」なのです。インフルエンザもその
中のひとつです。
 風邪症候群を起こすウイルスとその割合は次のようになっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   ライノウイルス ・・・・・・・・・・・ 30〜40%
   パラインフルエンザウイルス ・・・・・ 15〜20%
   RSウイルス  ・・・・・・・・・・・  5〜10%
   アデノウイルス  ・・・・・・・・・・  3〜 5%
   コロナウイルス  ・・・・・・・・・・    10%
   インフルエンザウイルス ・・・・・・・  5〜15%
   その他 ・・・・・・・・・・・・・・・    10%以下
      ──河岡義裕/河本研子著/ブルーバックスB1647
    『インフルエンザ パンデミック/新型ウイルスの謎に迫る』
――――――――――――――――――――――――――――――――
 風邪の90%以上はウイルス性感染によるものですが、インフルエン
ザはこのうち、5〜15%を占めているに過ぎないのです。

●なぜ、インフルエンザの新型は怖いか

 それにしても今回のインフルエンザで、なぜこんな大騒ぎをするので
しょうか。それは、今回のインフルエンザが新型であるからです。季節
的なインフルエンザは毎年発生しますが、数十年の一回の周期で、人間
がまったく免疫を持っていない新型のインフルエンザウイルスが発生し
ます。今回のインフルエンザウイルスはまさにそれに該当するのです。
 今回の新型は、2009年3月にメキシコで発生し、現在世界中に感
染が拡大している豚由来の新型インフルエンザウイルス──A型、H1
N1亜型であり、新型なのです。
 20世紀以降にインフルエンザウイルスは、次の3回のパンデミック
を引き起こしてきたのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
     スペイン風邪 ・・・・・・・・ 1918年
     アジア風邪 ・・・・・・・・・ 1957年
     香港風邪 ・・・・・・・・・・ 1968年
――――――――――――――――――――――――――――――――
 スペイン風邪による世界の死亡者は、実に2000万人〜4000万
人、日本人の死亡者は38万人です。当時の世界人口の約半数が感染し短期間に大量の死者を出したのです。これほどの死亡者を出した感染症
は過去になく、中世の黒死病(ペスト)に匹敵するのです。
 アジア風邪については世界の死亡者は200万人、香港風邪の世界の
死亡者は100万人、日本人の死亡者は1万人です。このように人間が
免疫を持っていない新型のインフルエンザがいかに恐ろしいか理解でき
ると思います。
 現在ウイルス学や医療は高度に発達していますが、その高度な医学を
もってしても、この数十年に一度の新型インフルエンザには手を焼いて
いるのです。したがって、世界中が今回の新型インフルエンザウイルス
に危機感を持ったのは当然のことです。
 その新型インフルエンザウイルスに対する警戒感は、1997年に香
港で家禽類を中心に猛威をふるっていたH5N1亜型の高病原性鳥イン
フルエンザウイルスが人間に感染し、18人中6人が死亡するという事
件からです。なぜなら、それまでは鳥インフルエンザウイルスは人間に
は感染しないし、感染しても重篤な症状にはならないと考えられてきた
からです。
 この後も高病原性鳥インフルエンザウイルスの人間への感染は続いて
おり、2009年8月の時点で483例の感染が報告されていますが、
そのうちの262人が死亡しているのです。死亡率は実に62%という
ことになります。       ―― [インフルエンザの話/02]
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2009年12月24日

●ウイルスとは何か――その謎に迫る

 「ウイルス」とは一体何でしょうか。
 若い人ならきっとコンピュータのウイルスを連想するでしょうが、一
般的には「病原体」と考えられています。ウイルスをきちんと定義する
と、次のようになります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ウイルス――ヴァイラス――virus は、他の生物の細胞を利用し
て、 自己を複製させることのできる微小な構造体である。   
  ――ウィキペディア
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ヴァイラス――virus は、ラテン語で「毒素」を意味する言葉であり
これが転じて病気を引き起こす毒素――すなわち、病原体を意味するよ
うになったのです。しかし、その実態が何であるか、当のギリシャ人に
は知る術まったくなかったのです。
 インフルエンザは、その存在自体は古くから知られていたのですが、
「インフルエンザ」という名前を付けたのは16世紀のイタリア人なの
です。インフルエンザは冬に多く発生するので、冬の天体や寒さにより
発生するものであると考えられイタリアで「天の影響」を意味する「イ
ンフルエンザ」と命名されたのです。英語でいう「influence」 のこと
です。
 インフルエンザの病原体がウイルスであることがわかったのは、実は
20世紀に入ってからなのです。1892年に日本の細菌学の父といわ
れる北里柴三郎博士は、インフルエンザに感染した患者の気道から、病
原体と思われる細菌を分離し、インフルエンザ菌と名付けたのです。し
かし、このインフルエンザ菌はインフルエンザとは関係がないことが後
でわかっています。
 ウイルスを発見したのは、ロシアのドミトリー・イワノフスキー博士
です。彼は、タバコモザイク病の病原体を含む液を素焼きの陶板ででき
た細菌濾過器に通す実験を行い、細菌よりも小さい微小病原体「ウイル
ス」の存在を証明することに成功したのです。
 人に感染するインフルエンザウイルスが分離されたのは、それから約
40年の後のことなのです。インフルエンザに感染した患者の喉頭部か
ら採取した液体をさまざまな動物に移植する実験を繰り返したのですが
一度として成功しなかったのです。
 英国人科学者たちは、試行錯誤の結果、実験動物を変更してみたので
す。その結果、イタチ科のフェレットに病原体に感染させることに成功
したのです。そこでその病原体を含む液を細菌濾過器を使って濾過し、
インフルエンザの病原体がウイルスであることを発見したのです。

●ウイルスの3つのタイプ/A型・B型・C型

 1950年代以降になると、電子顕微鏡やRNA解析技術の発達によ
ってインフルエンザウイルスは分子レベルでかなり詳しいことがわかる
ようになってきたのです。
 その結果、インフルエンザウイルスには、次のようにA型、B型、C
型の3つのタイプに分かれることがわかってきたのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
           A型      B型      C型
  症 状     典型的     典型的      軽度
  亜 型  H1〜HI6      なし      なし
       N1〜 N9
  宿 主  ヒト、鳥、豚      ヒト      ヒト
        馬、その他   (アザラシ)    (豚)
―――――――――――――――――――――――――――――――― A型ウイルスとは、ヒト、鳥、豚、馬など幅広い宿主に感染し、強い
病原性を発現するタイプであり、最も危険なタイプです。パンデミック
を起こす可能性のあるウイルスです。
 B型ウイルスは、アザラシから分離されたといわれていますが、感染
する宿主がヒトに限定されるタイプです。しかし、感染後の症状はA型
とよく似ていて、症状からはA型と区別がつかないのです。
 C型ウイルスは豚から分離したといわれていますが、主にヒトを宿主
にしているタイプです。子供に感染するとA型に似た症状が出ますが、
大人は感染しても症状は軽微です。
 ここで「RNA」について説明しておく必要があります。DNAとど
う違うのでしょうか。
 DNAとRNAの働きは違います。DNAは、化学的に安定した分子
で壊れにくく、その性質ゆえに、細胞核の中にあって遺伝情報そのもの
を記録・保存する役割を受け持つのです。いわば生物の設計図ですね。
RNAはDNAより小さくて合成・分解が簡単な分子で、DNAの情報
を核の外に持ち出し、酵素やたんぱく質を作る時に使われる、作業説明
書みたいなものです。
 DNAが生化学的に「読み込まれ」たり「翻訳」されたりするとき、
その翻訳された結果の産物がRNAです。次に、このRNAが読み込ま
れ、相当するたんぱく質が作られます。ある種のウィルスでは、DNA
よりむしろRNAが遺伝物質として使用されています。 
―― [インフルエンザの話/03]
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2010年01月07日

●インフルエンザウイルスはどのように細胞内に入り込むか

 空気中に漂うインフルエンザウイルスはそれを吸い込んだ宿主の気道
の粘膜に付着します。そして宿主の細胞内に侵入してRNAを送り込ん
で代謝機構を乗っ取るのです。そして、大量の「子ウイルス」を排出す
るわけです。
 インフルエンザにかかった人が咳やくしゃみをすると、鼻や口からウ
イルスを含んだ分泌物が大量に放出されます。ちなみに、一回の咳で飛
散する飛沫の数は約5万個、くしゃみにいたっては、約10万個の飛沫
が飛び散ることになります。ウイルスはそれらのひとつ一つの飛沫の中
にたっぷりと含まれているのです。
 しかし、ウイルスが宿主の細胞に吸着するためには、外被膜から飛び
出しているスパイクタンパク質HAが正常に機能する必要があります。
もし、HAが物理的に破壊されたり、化学的に変性したりすると、ウイ
ルスは細胞に吸着することはできないのです。ウイルスがこのような状
態になることを「不活化」といい、これはウイルスの死を意味します。
 ところで、体内に侵入したインフルエンザウイルスは、組織細胞の中
にどのようにして、入り込むのでしょうか。次の順序で侵入するのです
が、かなり専門的な話になりますが重要ポイントに絞って解説します。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       1.細胞膜表面に吸着
       2.細胞内への侵入
       3.脱殻
       4.ウイルスRNAとタンパク質の合成
       5.粒子の形成と放出
――――――――――――――――――――――――――――――――

●ウイルスの立場で増殖までのプロセスを見る

 感染とは何でしょうか。これをインフルエンザウイルスの立場から見
ていくことにします。まず、1の「細胞膜表面に吸着」です。
 感染というのは、インフルエンザウイルス粒子と細胞との物理的な衝
突により、スタートします。この衝突は偶然の産物ですが、吸着できる
かどうかは、衝突した細胞とウイルスの相性によるのです。
 HAが「鍵」の役割、これに対して侵入される方の宿主細胞の膜の表
面にはさまざまな受容物質が並んでいます。これが「鍵穴」に該当する
のです。HAの鍵と受容物質の鍵穴が合致する場合だけ、ウイルスは細
胞表面に吸着できるのです。ちょっと専門的になりますが、インフルエ
ンザウイルスが吸着できるのは、シアル酸を末端に持つ糖タンパク質や
糖脂質なのです。
 続いて、2の「細胞内への侵入」です。
 生物というのは、細胞膜によって閉じられた空間で、さまざまな化学
反応を行いそこで生まれた産物によって生命活動を営んでいるのです。
そのために細胞は、生命活動の材料となる物質を細胞外から定期的に取り込もうとするのです。インフルエンザウイルスは、この生命活動のシ
ステムを利用して細胞内に入り込むのです。
 3の「脱殻」とは何でしょうか。ここからがちょっと専門的になりま
す。
 細胞内に取り込まれたインフルエンザウイルスは、宿主の細胞膜でで
きたエンドソームという小胞の膜に取り囲まれていて、宿主の細胞質成
分とは隔絶されているのです。増殖を果たすためにはエンドソームを破
壊して、RNP(RNAタンパク質複合体)を細胞質内に送り込む必要
があるのです。
 そのかぎを握っているのが「M2タンパク質」なのです。M2タンパ
ク質は、水素イオンをウイルス内部に導入するチャネルの働きをするの
です。宿主細胞のエンドソーム内部は酸性に保たれているので、ウイル
スがエンドソームに取り込まれると、M2タンパク質のイオンチャネル
が活性化するのです。
 ウイルス粒子内に水素イオンが流れ込み、内部が酸性になると、RN
Pとウイルスの殻(外被膜)との結合が進むのです。ここでもうひとつ
のタンパク質であるHAはエンドソーム内の酸性の条件下でその立体構
造が変化して、宿主細胞のエンドソームとウイルスの外被膜を融合させ
ようとします。この膜融合によって、宿主の細胞質とウイルス粒子の内
部がつながり、ウイルスのRNPが細胞質内に放出されるのです。これ
を「脱殻」というのです。
 続いて4の「ウイルスRNAとタンパク質の合成」です。
 ここからウイルスは大活躍を始めるのです。宿主細胞の細胞小器官を
使って自分のRNAやタンパク質を作っていくのです。このとき子孫ウ
イルスを構成する部品だけでなく、その製造に必要な道具――酵素など
も作るのですが、すべて宿主細胞の中にあるものを拝借してそういう作
業をするのです。これらがウイルスRNAとタンパク質の合成のプロセ
スです。
 最後に5の「粒子の形成と放出」です。
 この最後の段階で、インフルエンザウイルスは増殖され、細胞表面に
次々と作られていくのです。しかも、それらのインフルエンザの子供が
細胞表面から遊離するさい、細胞膜を引きちぎって行くので、細胞は傷
つき、最終的には死にいたるのです。インフルエンザにかかると、発熱
や激しい咳やくしゃみをしますが、これはウイルスと宿主細胞との激し
いせめぎ合いの副産物なのです。
               ―― [インフルエンザの話/04]
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2010年01月14日

●豚由来の新型インフルエンザ――A型、H1N1亜型

 2009年以降世界的に流行している新型インフルエンザ――A型、
H1N1亜型は、豚由来のインフルエンザですが、豚由来のインフルエ
ンザが流行したのは今回がはじめてではないのです。
 今から34年前の1976年2月5日のことです。米国東海岸のニュ
ージャージー州にある米軍の陸軍基地フォート・ディスクで19歳の二
等兵が病院に担ぎ込まれたのです。ところが、懸命な治療のかいなく、
この兵士は急死してしまったのです。
 しかし、事態はこれにとどまらなかったのです。彼の周辺にいた4名
の兵士が次々に同じ症状を訴えて入院する騒ぎになったのです。原因不
明の感染症と判断した州の公衆衛生担当者は、検体をCDC――アメリ
カ疾病管理予防センターに送付して調査を依頼したところ、死亡した兵
士から豚由来のH1N1亜型インフルエンザウイルスが発見され、基地
内にいた500人以上が感染していたことが判明したのです。
 当時ヒトの間で流行していたインフルエンザウイルスはH3N2亜型
(香港型)だけだったので、H1N1亜型は新型ウイルスであり、この
まま放置して感染が広がると、パンデミックに進展する危険があったの
です。
 そこで、CDCは、当時のフォード大統領に対してパンデミックを未
然に食い止めるために、国民全員を対象にワクチン接種の必要性を訴え
たのです。その結果、大統領はこの勧告を受け入れ、前例のない規模の
ワクチン接種計画が実施に移されたのです。
 そのために1億人分のワクチンが用意され、約4000万人にワクチ
ンが接種された段階で予想外のことが発生したのです。予想外のことと
は、インフルエンザの感染は思ったほど広がらず、その代わりワクチン
接種者の一部から、ギランバレー症候群を発症するケースが続発したの
です。
 ギランバレー症候群とは、筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に
力が入らなくなる難病で、昨年亡くなった女優の大原麗子さんがかかっ
た病気です。結局、このギランバレー症候群で32人が死亡し、数百人
に後遺症障害が残ったのです。そのため、インフルエンザの予防接種は
中止に追い込まれることになったのです。
 結局、この豚由来のインフルエンザ騒ぎは、死者1名、数名の重傷者
と、それをはるかに上回るワクチン禍の犠牲者を出して終わったのです。

●「種の壁」を超える感染が広がる

 豚におけるインフルエンザは、1918年にもイリノイ州の農場での
発生が報告されています。ちょうど同時期にヒトとヒトの間で「スペイ
ン風邪」によるパンデミックが発生したので、ヒトで大流行したスペイ
ン風邪が豚にも伝播したのか、それとも逆に豚のウイルスがヒトに伝播
し、スペイン風邪を引き起こしたのかはわかっていないのです。
 はっきりしているのは、2009年にパンデミックを起こした豚由来のインフルエンザウイルス――A型、H1N1亜型は1918年に豚で
流行したウイルスの流れを組んでいることです。
 A型インフルエンザは、ヒト、豚、鳥のほかに、猫、馬、犬、虎、ミ
ンク、アザラシなどの幅広い生物種がかかる人獣共通感染症であり、鳥
→豚、ヒト→豚、豚→ヒトというように種を超えた感染を引き起こして
さまざまな遺伝的バックグラウンドを持つインフルエンザウイルスが絶
えず登場しています。
 最近米国では、馬に感染したインフルエンザウイルスが、ドックレー
ス用の競争犬に感染しそれがペット用の犬にも感染が広がっています。
今のところ日本では感染が広がっていませんが、日本でも流行する可能
性があります。犬の場合、ヒトとは濃密な接触をするので、犬→ヒトと
いう、新たな種を超えた感染が起きる可能性も高いのです。
 「種の壁」を超える感染は容易には行ないのです。とくにヒトのよう
な高等生物では、気の遠くなるような長い歳月を経るうちに遺伝子変異
が少しずつ蓄積して、はじめて新しい形質が生まれる。しかし、インフ
ルエンザウイルスは非常に早く進化できるのです。
 インフルエンザウイルスは、他の生物種であれば、何百万年もかかる
ような進化を、年単位、月単位でやり遂げてしまうのです。なぜ、イン
フルエンザウイルスはそんなに速く進化できるのであろうか。
 この「変異」について、専門家は次のように解説しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 鍵を握るのが遺伝物質の違いだ。高等生物は遺伝情報をDNAに記録
しているのに対して、インフルエンザウイルスは<遺伝情報をRNA
に記録している。生物やウイルスはDNAやRNAを複製しながら子
孫を増やしていくが、その際に一定の割合でコピーミスが生じる。D
NAの場合は、DNAを複製するDNAポリメラーゼという酵素にコ
ピーミスを修復する機能があるのだが、RNAを複製するRNAポリ
メラーゼにはそれに相当する機能がない。そのためRNAウイルスで
はヒトに比べて1000倍から1万倍の確率で遺伝子変異が生じる。
                   ――河岡義裕・堀本研子著
『インフルエンザパンデミック/新型ウイルスの謎に迫る』/講談社刊
―――――――――――――   ―― [インフルエンザの話/05]
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2010年01月21日

●遺伝子変異には2つの種類がある

 ウイルスは絶え間ない遺伝子変異を繰り返しているのですが、実はイ
ンフルエンザウイルスで怖いのは、この「変異」なのです。遺伝子変異
には、次の2つがあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
  1.マイナーモデルチェンジ型の変異 ―― 抗原の 連続変異
  2.フル  モデルチェンジ型の変異 ―― 抗原の不連続変異
――――――――――――――――――――――――――――――――
 インフルエンザウイルスは、車のモデルチェンジに例えることができ
ます。「マイナーモデルチェンジ」は、エンジンやシャーシーなどの骨
格部分はそのまま使って、オプション部品を付けたり、塗装の色を変更
したりする――いわゆるマイナーな変更ですが、インフルエンザウイル
スにもそういう変化はあるのです。これを「抗原の連続変異」と呼んで
いるのです。
 人間がインフルエンザウイルスに感染すると体内に抗体ができます。
これがあるので、次にウイルスが入ってきても獲得免疫が働いて、ウイ
ルスを撃退してくれるのです。
 しかし、抗原の連続変異で生まれた基本構造は変わらないものの、周
辺が少し違うウイルスが入ってくると、用意した抗体では対応できない
ことが起きるのです。したがって、人間の抗体防御網をすり抜けたウイ
ルスが生き残り、増殖することになります。
 われわれが抗体があっても毎年インフルエンザウイルスに感染してし
まうのは、この「昔と少しだけ形の異なるウイルス」のせいなのです。
したがって、毎年感染予防のためにワクチンを打ち続けなければならな
いのです。
 問題は、フルモデルチェンジ型の変異です。これが起きると、ウイル
スの抗原性はがらりと一変するのです。このような劇的な変異のことを
「抗原の不連続変異」といいます。
 ここで少し専門的な説明を理解していただく必要があります。インフ
ルエンザウイルスを電子顕微鏡で見ると、ウイルスの外被膜から釘のよ
うなものが出ているのがわかります。この釘状のものはタンパク質であ
り、「スパイクタンパク質」というのです。「スパイク」とは「釘」と
いう意味です。
 スパイクタンパク質は次の2つで構成されています。これら2つは、
インフルエンザウイルスの性質を決定づける重要な役割を果しているの
です。
――――――――――――――――――――――――――――――――
      1. ヘマグルチニン ・・・・・ HA
      2.ノイラミニダーゼ ・・・・・ NA
――――――――――――――――――――――――――――――――
 人間のゲノム――ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報
は2本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)であるのに対して、インフルエ
ンザウイルスのゲノムは1本鎖のRNA(リボ核酸)で、しかも8本に
分かれています。
 HAは抗原性の違いにより、16の亜型に分類されます。「H5N1
亜型」の「H5」はHAの亜型が「5」という意味になります。これに
対してNAはNAの抗原性の違いにより、9つの亜型に分類されます。
「H5N1亜型」の「N1」とはNAの亜型が「1」という意味です。

●遺伝子の再集合によって誕生する新型インフルエンザウイルス

 さて不連続変異が起きると、インフルエンザウイルスの抗原性を決め
るHAとNAの両方、あるいはどちらか一つが別の型に変化してしまう
のです。これによって、季節性インフルエンザとは抗原性の異なる新し
いインフルエンザが生まれることになります。
 そのため、以前に感染したときにできた免疫も、現行のワクチンも全
然効果がなくなります。1957年のアジア風邪や、1968年の香港
風邪の原因になった新型インフルエンザウイルスは、こうした仕組みに
よって誕生したのです。抗原の不連続変異をまとめると次のようになり
ます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   ≪抗原の不連続変異≫
    1.遺伝子再集合によりウイルスの抗原が大きく変化
    2.HA亜型のみ、あるいはHA、NA両亜型が変化
    3.パンデミックの一因/現行のワクチンは効果なし
――――――――――――――――――――――――――――――――
 現在世界中で感染が拡大している豚由来の新型インフルエンザウイル
ス――A型、H1N1亜型も遺伝子再集合によって発生した、まったく
新しい顔を持つウイルスなのです。このように、抗原性が著しく異なる
新型のインフルエンザウイルスは、遺伝子の再集合によって誕生するの
です。
 遺伝子の再集合とは、ひとつの細胞に異なるインフルエンザウイルス
が同時に感染することによって、従来とはまったく異なる組み合わせの
RNA分節を有する遺伝子が誕生することをいうのです。
 このウイルスは高病原性インフルエンザに比べて病原性が弱いとされ
ているので、季節性インフルエンザの仲間ではないかと思われています
が、まったくの別物なのです。
――――――――――――――――――[インフルエンザの話/06]
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2010年01月28日

●インフルエンザに対するメディア論調の間違い

 新型インフルエンザをめぐる各メディアの報道で気になるというか誤解を与えやすい次のような論調があります。
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 新型ではあるが、弱毒性──低病原性であり、季節性インフルエンザ
 の危険性とさほど変わらない。
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 この論調は2つの点で間違っています。
 1つは、低病原性だからといって、新インフルエンザが季節性インフルエンザと同等の危険性しかないというのは間違っています。低病原性であっても、ひとたびパンデミックが起きると、低病原性であっても大きな被害が起きるからです。
 なぜなら、新型ウイルスは人類の大部分が感染したことのない抗原タンパク質を持っているので、その強力な「伝播力」によって、かなりの確率でほとんどの人が感染、発症してしまうのです。そのため致死率が低くても、分母となる感染者数が多いと、多くの犠牲者が出ることになります。
 もう1つは、新型インフルエンザの病原性が急に強くなることがあるということです。世界中で、現在大流行している新型インフルエンザは、スペイン風邪ウイルスと同じH1N1亜型なのですが、スペイン風邪の致死率も流行が始まった春頃はそれほど高くはなかったのです。しかし、第2波が流行した秋には致死率は5倍も高くなっていたのです。
 なぜ、これほどスペイン風邪の致死率は高くなったのでしょうか。
 スペイン風邪のウイルスは、ヒトの体で感染・増殖を繰り返しているうちに強い病原性を獲得した可能性があるのです。これと同じことが現在流行している新型ウイルスで起こっても不思議ではないのです。
 インフルエンザウイルスというものは絶えず変異を繰り返しているのです。そのため病原性が変化することはよくあることなのです。ごくわずかなアミノ酸変異で、突然病原性の強いウイルスに変化することがあるのです。
 ここで留意すべきことは、ウイルスを構成する物質には毒性がないということです。病原性の強いウイルスでも病原性の弱いウイルスでも化学的な組成はほとんど同じです。それでは、病原性の強弱は何によってもたらされるものなのでしょうか。
 『インフルエンザパンデミック』(講談社刊)の著者の一人である河岡義裕氏は、同書でこれについて次のように説明しています。
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 端的にいえば、ウイルスが増殖できる臓器の種類と増殖速度の違いで
 ある。低病原性鳥インフルエンザウイルスはニワトリの呼吸器や腸管
 でしか増えないのに対して、高病原性鳥インフルエンザウイルスはニ
 ワトリの脳を含む全身の細胞で増殖する。前者を「局所感染」、後者
 を「全身感染」という。ウイルスが増殖できる「組織」が多ければ多
 いほど、宿主がダメージを受けるのは当然だ。
 ――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/新型ウイ
 ルスの謎に迫る』(講談社刊)
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●スペイン風邪の恐ろしさを知れ

 スペイン風邪がどれほど恐ろしいものかという認識には温度差があります。何しろ今から90年前の出来事ですから、その体験者はほとんどおらず、伝承のみでしか伝わっていないからです。
 しかし、文書として遺されたものは多くあります。河岡義裕/堀本研子著の前掲書ではリチャード・コリヤー氏の次の文を掲載しています。
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 ケープ・タウンで、輸送軍団の運転手をしていたチャールス・ルイス
 は、休暇で、5キロメートル離れた海岸の両親の家へ行くために電車
 に乗ったが、その電車の車掌は、発車の合図をしようとして、プラッ
 トフォームに立ったとき、倒れて、そのまま死んでしまった。それで
 も、ルイス自身が発車係を務めて、電車は動き出したが、何分も経た
 ないうちに、次々に乗客が倒れて死んでいった。そのため電車は、ま
 だ生暖かい死体を市の馬車に渡すために5回も止まらなければならな
 かった。しかも、海岸までの道のりの4分の3まで行ったところで、
 運転手も前に崩れるように倒れて死んでしまい、結局ルイスは、まだ
 生きていることを感謝して、家まで歩いたのである。
                   ――リチャード・コリヤー著
   『インフルエンザ・ウイルス スペインの貴婦人/、清流出版刊
――――――――――――――――――――――――――――――――
 スペイン風邪にかかると、40度を超える高熱が出て重度の肺炎にかかって肺水腫を起こすのです。そして多くのケースでは、発症してから数日で呼吸困難に陥り、死にいたるのです。
 スペイン風邪の流行当時、第一次世界大戦の最中だったので、事実は伏せられ、それが被害を大きくしたのです。スペイン風邪にかかった兵士が戦場を転戦する過程で世界中に伝播したからです。
―――――――――――――― ―― [インフルエンザの話/07]
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2010年02月04日

●ワクチンとは何か――2種類がある

 ワクチンとは何であろうか。
 ワクチンは人類の考えたウイルス感染症を予防する方法の中で最も効
果的なものです。天然痘やポリオ、そしてインフルエンザなど、ワクチ
ンによって、数多くのウイルス感染症が克服されているのです。
 ワクチンの目的は、治療薬ではなく、「感染を予防すること」です。
そのため、ワクチンは感染前に接種するものです。こんな当たり前のこ
とが、よくわかっていない人も多いのです。
 ワクチンを発見したのは英国の開業医エドワード・ジェンナーです。
牛痘にかかった人間は天然痘にかかりにくくなり、かかっても症状が軽
いことを発見し、これにより天然痘ワクチンを作ることに成功したので
す。
 この研究を引き継いだのは、フランス人の生化学者のルイ・パスツー
ルなのです。パスツールは、病原体を培養し、これを弱毒化し、それを
健康な人に感染させるという、当時としては画期的な「ワクチン療法」
を確立したのです。
 その後、ウイルス学の発展とともにワクチン製造の技術革新が進み、
いろいろなタイプのワクチンが開発されるようになったのです。現在使
われているワクチンには次の2つがあります。
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          1.生ワクチン
          2.不活化ワクチン
――――――――――――――――――――――――――――――――

●「生ワクチン」は効果が高いが副作用がある

 パスツールをはじめとする初期の学者たちが使ったのが、「生ワクチ
ン」なのです。生ワクチンは弱毒化されていますが、文字通り「生きて
いるワクチン」であり、生ワクチンを投与すると、人間の体内で軽度の
感染が起きるのです。
 これによって免疫記憶が生まれ、病原体を体内から排除したあとも、
その免疫記憶は残るので、次に同じ病原体が侵入してきたとき、素早く
抗体を産生して発症を防ぐのです。
 このあたりのことをもう少し詳しく述べることにします。病原体が体
内に侵入すると生体内には病原体をターゲットとする抗体が血清中に作られるのです。抗体を作るのは「B細胞」と呼ばれるBリンパ球です。
B細胞が作った抗体が病原体に付着すると、病原体は自由を奪われ、伝
播力を失うのです。これを「体液性(液性)免疫」といいます。
 この病原体を覚えたB細胞の一部が「免疫記憶細胞」になるのです。
この細胞はリンパ節に残り、同じ病原体が侵入してきたときに、すばや
く抗体を作るB細胞を産生するのです。はしかや風疹などに一度かかる
と、二度と発症しないのは、この免疫記憶の働きによるものです。
 ところが、感染が少し重度に進むと、ウイルスは宿主の細胞内に侵入
するのです。こうなると、B細胞は無力です。しかし、ウイルスによっ
て侵された細胞は、生体内で「感染した細胞」として認識されます。
 そうすると、ウイルスは「細胞傷害性T細胞」によって攻撃され、排
除されます。これを「細胞性免疫」というのです。生体は、この2重の
免疫によってウイルスを排除してくれるのです。

●「不活性ワクチン」が一般的には使われる

 「生ワクチン」と並ぶもうひとつのワクチンが「不活化ワクチン」で
す。生ワクチンの場合、何しろ生きたウイルスであるので、もともと免
疫力の弱い人に接種すると、副作用が発生することがあるのです。その
ため、生ワクチンで日本で認可されたものは少ないのです。
 不活化ワクチンとは一口にいえば「死んだワクチン」ですが、その定
義を示しておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 不活化ワクチンはホルムアルデヒドなどの化学薬品などで不活化させ
 た(感染能力を失わせた)ウイルスや細菌、あるいはそのタンパク質
 の一部をもとに作製する。現在使用されている不括化インフルエンザ
 ワクチンは、ウイルスの構成要素をバラバラにしたスプリットタイプ
 が主流だ。このタイプは副作用のリスクが少ない反面、ウイルス構造
 を壊さずに不括化した全粒子タイプに比べて効き目が悪いとされる。
  ――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/新型ウ
                 イルスの謎に迫る』(講談社刊)
――――――――――――――――――――――――――――――――
 不活化ワクチンの問題点は生ワクチンよりも予防効果が低い点です。
それは、生ワクチンが「体液性免疫」と「細胞性免疫」の2つの免疫でウイルスを防ぐのに対して、不活化ワクチンは、「体液性免疫」だけなのです。
 そのため、細胞内に入ってしまったウイルスには無力になのです。そ
れに加えて、不活化ウイルスを皮下接種しているので、血中には体液性
免疫によって抗体は作られるものの、インフルエンザウイルスの侵入口
である鼻や喉の粘膜面に抗体が分泌されにくいのです。生ワクチンより
も安全ではあるものの、効果はいまひとつなのです。
               ―― [インフルエンザの話/08]     
 
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2010年02月12日

●なぜ、日本は学童へのワクチン集団接種をやめたのか

 1977年以降、日本で流行を繰り返しているインフルエンザウイル
スは次の3つです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
      1.       I―― H3N2亜型
      2.A型ウイルス I
               I―― H1N1亜型
      3.B型ウイルス
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これらのウイルスが交互に流行を繰り返してきていることに着目した
日本の厚生省は、1976年〜1986年まで、小学校に通う学童に、
インフルエンザワクチンの集団定期接種を行ってきたのです。
 その効果はてきめんであり、1960年代から1980年代には、イ
ンフルエンザによる死亡者数、超過死亡者数は大きく減少したのです。
「超過死亡」というのは、平均的な死亡者数を超過した死亡者数のこと
です。
 しかし、厚生省は1987年になると、学童への定期接種を任意接種
に変更したのです。そのため、ワクチンの接種量は激減、これに連動し
て死亡者数、超過死亡者数はともに増加したのです。
 インフルエンザの羅患率は、0歳〜14歳が最も多く、15歳以上に
なると急減します。15歳以上になると、流行を繰り返している主要な
ウイルスにほとんど感染するので免疫ができ、インフルエンザにかかり
にくくなります。
 問題は年齢別の死亡率なのです。65歳以上の高齢者の死亡率が突出
して高いのです。インフルエンザの羅患率そのものは他の年代とほとん
ど変わらないのですが、体力や免疫力が落ちているので、感染すると重
篤な症状に陥りやすくなるのです。
 学童へのインフルエンザ集団接種は社会全体におけるインフルエンザ
ウイルスの総量を減らす効果があり、それによって高齢者のインフルエ
ンザによる死亡率を抑制してきたのです。その優れた感染予防対策を厚
生省は、なぜかその優れたシステムを放棄してしまったのです。確たる
根拠に基づかない「集団接種は予防効果が低い」という一部意見に引き
ずられて中止になったといわれています。実に愚かなことです。
 1987年に強制力のない勧奨接種に切り替えられ、1994年に予
防接種法が改正されると、学童へのインフルエンザワクチンの集団接種
は中止されたのです。
 逆に米国などの先進国では、日本における集団接種の効果を分析して
おり、これから若者層への集団接種を行おうと検討しているのです。厚
生省は年金問題だけではなく、いろいろなところで間違いを冒している
のです。

●「抗インフルエンザ薬」――もうひとつの切り札

 パンデミック対策としてワクチンと並ぶもうひとつの柱は「抗ウイル
ス薬/抗インフルエンザ薬」なのです。
 抗インフルエンザ薬とは何でしょうか。少し専門的ですが、専門家は
次のように説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 宿主の免疫応答を利用するワクチンの場合、事前に予想した「ウイル
 スの抗原性」と、実際に感染した「ウイルスの抗原性」が合致しなけ
 れば、予防効果が下がってしまう。これに対して、抗インフルエンザ
 薬は、インフルエンザウイルスに共通する感染・増殖機構を阻害する
 ことで作用するので異なる亜型のウイルスに対しても同等の効果を示
 す。いうなれば、インフルエンザワクチンは特定の亜型のウイルスに
 しか効かないオーダーメイド品であるのに対して、抗インフルエンザ
 薬は、それよりも多くの亜型のウイルスに対応できる汎用品なのだ。
――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/
新型ウイルスの謎に迫る』(講談社刊)
――――――――――――――――――――――――――――――――
 新型ウイルスの流行に先立って接種するワクチンの有効性は、どのよ
うなウイルスが出現するかわからないので、その効果に確証がないので
す。一方、実際に出現した新型ウイルスをもとに作製する新型ワクチン
は感染を予防する力はありますが、ワクチンメーカーの製造能力に限界
があるので、その間に新型ウイルスの感染は拡大してしまいます。
 そのため、パンデミック初期には、抗インフルエンザ薬の果たす役割
は大きいのです。しかし、抗インフルエンザ薬にも大きなネックがある
のです。というのは、季節性インフルエンザでは、抗インフルエンザ薬
が効かない耐性ウイルスが出現するからです。
 現在市販されている抗インフルエンザ薬には次の2種類があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
        1.      M2阻害剤
        2.ノイラミニダーゼ阻害剤
――――――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [インフルエンザの話/09]
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2010年02月18日

●M2阻害剤としての「アマンタジン」

 前回ご紹介した現在市販されている2種類の抗インフルエンザ薬を再
現しておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.      M2阻害剤
         2.ノイラミニダーゼ阻害剤
――――――――――――――――――――――――――――――――
 M2阻害剤としては「アマンタジン」があります。商品名はシンメト
レルです。アマンタジンは、ウイルス表面にあるM2タンパク質の働き
を阻害することによってウイルスの増殖を抑えるのです。そのため「M
2阻害剤」というのです。しかし、M2タンパク質はB型インフルエン
ザウイルスには存在しないので、アマンタジンはB型ウイルスには効果
がないのです。
 インフルエンザウイルスは、宿主の細胞に取り込まれただけでは増殖
できないのです。インフルエンザウイルスが細胞内で増殖するには、ウ
イルスの命ともいうべきRNAを宿主の細胞質内に移動させなければな
らないのです。
 ところが、ウイルスのRNAは、タンパク質との複合体(RNP)を
形成していて、外皮膜――エンベロープと呼ばれる脂質でできた殻に固
定されているのです。したがって、宿主の核に送り込むには、RNPと
外皮膜との結合を解除させる必要があるのです。
 M2タンパク質というのは、このRNPと外皮膜との結合を解除させ
るうえで重要な働きをするのです。結合の解除には「イオンチャネル活
性」がカギを握っています。M2タンパク質は、ウイルスの外皮膜を貫
通しているタンパク質であり、水素イオンの導入を制御する「イオンチ
ャネル活性」を持っているのです。
 インフルエンザウイルスが宿主細胞の小胞――エンドソームに取り込
まれると、イオンチャネルが活性化され、エンドソームの水素イオンが
ウイルス粒子内に流入するのです。水素イオンが流入して外皮膜の内部
が酸性になると、RNPと外皮膜との結びつきがゆるんで、RNPが外
皮膜から離れることができるのです。
 しかし、アマンタジンを投与すると、M2タンパク質の働きが阻害さ
れ、水素イオンの流入がストップするのです。その結果、RNPは外皮
膜から外れることはできなくなり、ウイルスRNAを細胞質に送り込む
ことを阻止してウイルスの増殖を抑えることができるのです。
 なお、アマンタジンは予防薬として優れた特性を持っており、事前に
服用しておけば、インフルエンザウイルスに感染しにくくなります。ま
た、感染した後に服用すると、発熱などの症状も軽減するので、世界各
国の医療現場で使われたのです。しかし、最近では使われることはない
のです。
 アマンタジンが米国で認可されたのは1966年のことですが、それ
からわずか数十年で抗ウイルス薬としては役に立たなくなっています。
それは耐性ウイルスの出現によるものです。アマンタジン投与の患者の
実に80%に耐性ウイルスが出現することが確認されているのです。

●ノイラミニダーゼ阻害剤としての「タミフル」

 アマンタジンの効力がなくなってしまった現在、最も使われているの
は、ノイラミニダーゼ阻害剤なのです。日本で認可されているノイラミ
ニダーゼ阻害剤は「タミフル」の商品名で知られる経口剤の「リン酸オ
セルタミビル」と、吸入剤の「ザナミビル」――商品名リレンザです。
 ノイラミニダーゼ――NAというのは、ウイルス表面を覆うスパイク
タンパク質の一つです。その名の通りノイラミニダーゼ阻害剤は、NA
の働きを阻害することによって、ウイルスの増殖にブレーキをかけるの
です。
 アマンタジンが、ウイルスRNAの細胞内への侵入を阻止するのに対
し、ノイラミニダーゼ阻害剤は、細胞内で増殖したウイルスが、細胞表
面から遊離していくのを阻害する薬なのです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 インフルエンザウイルスは、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダー
ゼ(NA)とを有しています。赤血球凝集素は、ウイルスが宿主細胞に
侵入するさいに必要になります。ウイルスは、赤血球凝集素を介して、
宿主細胞のウイルス受容体に結合します。
 ノイラミニダーゼは、ウイルスが宿主細胞から遊離する際に必要にな
るのです。宿主細胞内で増殖したウイルスは、ノイラミニダーゼにより
ウイルスの赤血球凝集素と宿主細胞のウイルス受容体との結合を外す役
割をするのです。抗インフルエンザウイルス薬のリン酸オセルタミビル
すなわち、タミフルはウイルスのノイラミニダーゼを阻害し、宿主細胞
内で増殖したウイルスが、宿主細胞外への遊離を抑制して、インフルエ
ンザウイルスの増殖を抑制するする働きをするのです。
 タミフルは、ギリアド・サイエンシズ社が1996年に開発した抗イ
ンフルエンザ薬であり、スイスのロシュ社が製造し、日本では中外製薬
が販売しているのです。日本は世界でもっともタミフルの消費量の多い
国であり、季節性インフルエンザが大流行した2002〜2003年に
は全世界でのタミフル生産量の70%が日本で使われたのです。
               ―― [インフルエンザの話/10]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | インフルエンザの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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