2010年03月18日

●「仮面高血圧症」という高血圧がある

 医師を前にすると、血圧の上がる人がいます。こういう人を「白衣高
血圧」といい、そういう場合、医師は測定した血圧値から10mmHg
ぐらいを引いて血圧値を決めるそうです。
 もうひとつやっかいなものに「仮面高血圧症」というのがあります。
医師が測定するときは正常値なのですが、他の時間帯では異常に血圧が
上がるタイプの高血圧症です。仮面高血圧症には次の3つがあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.モーニング・サージ
         2.ノン・ディッパータイプ
         3.イン・ディッパータイプ
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1のタイプは「モーニング・サージ」です。
 早朝覚醒時に、血圧が急上昇するタイプのことを「モーニング・サー
ジ」といいます。やっかいなことに、このタイプは日中は正常血圧にな
るのです。したがって、医師が測定するときは正常値なので、高血圧症
であることに気が付かないケースが多いのです。
 第2のタイプは「ノン・ディッパータイプ」です。
 このタイプは夜寝ているときでも血圧が下がらないのです。ぐっすり
眠っているときは、ノン・レム睡眠状態といい血圧は確実に下がるので
す。それなのに下がらないタイプが「ノン・ディッパータイプ」です。
 第3のタイプは「イン・ディッパータイプ」です。
 これは夜になると、血圧が上がっていくタイプです。これは、睡眠時
無呼吸症候群の人たちに多いといわれています。眠っているときに血圧
が上がると、動脈硬化を誘発し、心筋梗塞を起こしたりする可能性が高
いのです。朝起きてこないので、起こしにいくと亡くなっていたという
ことがありますが、この場合は、イン・ディッパータイプであることが
多いのです。

●薬で血圧を下げることは是か非か

 血圧は薬を使えば下げることができます。しかし、これには反対意見
も少なくないのです。「血圧は薬で下げるな」という医師もいます。こ
れについて、長山雅俊医師は次のように述べています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 1999年の47653人を対象とした研究によりますと、この数
 年で血圧を平均16mmHg下げると、脳卒中は38%激減したと
 いうデータが出ましたし、虚血性心疾患、いわゆる心筋梗塞とか狭
 心症での死亡率も16%減らすことができたと報告されています。
 (中略)また、厚生労働省が推進している「健康日本21」では、
 日本全国民の血圧がわずか2mmHg下がっただけで、脳卒中の死
 亡者を約1万人減少させることができ、心筋梗塞を含む循環器全体
 では、約3万人の死亡を減らすことができる、と試算しています。
      ――長山雅俊著、『心臓が危ない』/祥伝社新書156
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、国民一人ひとりが2mmHg分血圧を下げるだけで、
脳卒中の死亡者を激減させることができることになるわけで、高い血圧
は薬を使ってでも下げる必要があるということになります。
 それでは血圧はどのくらいの高さまでならば大丈夫なのでしょうか。
 中高年層から高齢者については、次の基準を目安にすべきであると、
長山医師はいっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   『高齢者』     ・・・・・   140/90
   『40代〜60代』 ・・・・・   130/85
――――――――――――――――――――――――――――――――

●血圧を下げる3つの方法

 ところで、血圧を下げる方法は薬だけではないのです。薬も含めて次
の3つの方法があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
            1.食事療法
            2.運動療法
            3.薬物療法
――――――――――――――――――――――――――――――――
 第1は「食事療法」です。食事療法のポイントは塩分を可能な限り控
えるということです。一日の塩分摂取量を10グラム以下に抑えること
です。
 第2は「運動療法」です。血圧を下げる運動というと、筋肉に酸素を
取り込んでいく「有酸素運動」が適しています。ウォーキング、サイク
リング、水泳は有酸素運動」として最適です。
 第3は「薬物療法」です。運動療法はあまり血圧が高い場合は危険で
あり、そういう場合は、医師の指示にしたがって、薬物療法ということ
になります。          ―― [心臓について知る/04]
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2010年03月11日

●オームの法則と血圧の関係

 血圧はどのようにして計算するのでしょうか。
 「オームの法則」というのを覚えているでしょうか。中学校の理科で
必ず習ったはずです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
    「電圧」(V)=「電流」(A)×「抵抗」(R)
――――――――――――――――――――――――――――――――
 血圧も「オームの法則」にとてもよく似ています。血圧も式に直すと
次のようになります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       「血圧」=「心拍出量」×「血管抵抗」
――――――――――――――――――――――――――――――――
 「心拍出量」とは何でしょうか。
 「心拍出量」とは一分間に心臓から押し出されていく血液の量です。
これは心臓の収縮力で大きく変化します。基本的に、心伯出量が上がる
というのは心臓が活発に動いているということであり、悪いことではな
いのです。心拍出量の正常値は、一分間に5リットル〜8リットルとい
うところです。
 「血管抵抗」とは何でしょうか。
 これは血管の内径によって、違ってきます。心臓が収縮して血液を送
り出すと、血管はそれを受け止めるために拡張しますが、この場合、血
管が狭ければ狭いほど血管抵抗は大きくなります。
 すなわち、血管抵抗は、広い血管、狭い血管、弾力性のある血管、硬
い血管によって、抵抗力にさまざまな違いが出てきます。血管が若いと
血管抵抗は小さく、老化していると血管抵抗は高くなります。とくに動
脈硬化は血管抵抗を高めてしまい、血圧上昇の原点になります。

●「交感神経」と「副交感神経」──血圧の関係

 「交感神経」と「副交感神経」についてどのくらい知っていますか。
 「交感神経」は「昼の神経」といわれ、人が活動するときに活躍する
神経のことです。したがって、交感神経が働きだすと、瞳孔が開き、心
臓の拍動は活発になり、血管は収縮するので、血圧は上昇し、体はエネ
ルギッシュになっていきます。
 これに対して「副交感神経」は「夜の神経」といわれます。副交感神
経が優位に動き出すと、脈拍はゆっくりになり、血圧は下降し、体も心
もゆったりとするのです。
 つまり、日常生活では、血圧は昼は高く、夜は低くなるのです。どの
くらい違うかを示しておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
     『収縮期血圧』 ・・・ 15〜20mmHg
     『拡張期血圧』 ・・・ 10〜15mmHg
――――――――――――――――――――――――――――――――

●日常生活の場での血圧の変化

 日常生活のいろいろな場面で血圧はそれぞれ違ってきます。
 立っているときと座っているときでは、立っているときの方が血圧が
上がります。食事をしているときは血圧が上がりますが、食後1〜2時
間で血圧は下がります。飲酒は飲み始めが上昇のピークですが、これも
時間が経過すると下がってきます。
 喫煙はどうでしょうか。タバコは吸い始めてから20分後に血圧は上
昇しますが、大きな上昇はないのです。しかし、タバコの主成分である
ニコチンの薬理作用は、毛細血管を収縮させるので、それだけ心臓に負
担をかけることになり、危険です。喫煙は百害あって一利なしで、やめ
るべきです。
 入浴はどうでしょうか。入浴直後は温度の高さには関係なく、交感神
経を刺激するため、血圧は上がります。しかし、ゆったりとした気分で
適温の湯に入ると、抹消血管まで拡張されるので血圧は下がるのです。
入浴は、急いだりせかせかとせず、ゆったりとするべきです。
 問題は湯から出るときです。湯から出た瞬間は、熱を外部に放射させ
るので抹消血管が拡張されるので、血圧は下がりますが、急に寒い脱衣
所──家庭の脱衣所はほとんどは寒い──に入ったとたん血圧は急上昇
します。心筋梗塞はこういうとき起きやすいのです。したがって、浴室
と脱衣所の温度差をなるべく小さくしておくことが大切です。
 いちばん危険なのはトイレです。排便中にいきむと、血圧の急上昇が
みられるのです。それも半端な上昇ではなく、「60〜70mmHg」
にも及ぶので高血圧の人はとくに注意が肝心です。
 仮に高血圧で最高血圧がつねに150以上の人の場合、トイレでいき
むと、あっという間に血圧は200を超えてしまうので、危険極まりな
いのです。したがって、血圧はたとえ薬を使っても最高血圧を140以
下にしておく必要があるのです。トイレにいかないわけにはいかないか
らです。            ―― [心臓について知る/03]
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2010年03月04日

●血圧はなぜ水銀柱で測るのか

 「血圧」とは何でしょうか。
 血圧とは、心臓から送り出された血液が、動脈の内壁をプッシュする
力──ブラッド・プレッシャー(blood pressure)のことです。そんなことわかっているという人は多いでしょうが、実際に動脈の内壁を押す力がどの程度の圧力なのかについて認識している人は少ないのです。
 血圧の単位は「mmHg」──水銀柱ミリメールです。「Hg」は水銀の元素記号であり「mmHg」というのは血圧計で計測したときに、血圧が水銀をどのくらいの高さまで押し上げるかをあらわした数字です。血圧100の場合は血圧計の中の水銀柱が10センチ上がることになります。
 水銀柱を10センチ押し上げる力とはどのくらいの力でしょうか。
 これは水銀の代わりに水を使った場合を考えてみるとよくわかります
水銀は水の比重の13.6 倍であるので、血圧100とは、水を1メー
トル36センチ押し上げる力ということになります。
 つまり、血液を身体の隅々まで届けるには、そのくらいの力がないと
届かないのです。健康な人であれば問題はありませんが、もし血管に問
題があれば、血管の内壁がそれに耐えられなくなる恐れが出てくるので
す。まして、高血圧の人は治療をしないと取り返しのつかないことにな
る恐れがあります。
 血圧といっても次の2つがあることは知っていると思います。しかし
本当にその意味が分かっているのかをちゃんと説明できる人は少ないの
です。
――――――――――――――――――――――――――――――――
        1.収縮期血圧 ・・・ 最高血圧
        2.拡張期血圧 ・・・ 最低血圧
――――――――――――――――――――――――――――――――
 血圧が「150/80」の人がいるとします。「150」というのは
心臓が収縮したとき、つまり、血液が送り出されたときの血圧のことで
す。血液は強い勢いで送り出されるので、これを「最高血圧」というの
です。
 「80」は、心臓が拡張したとき、いわば血液が心臓に入ってくると
きの血圧のことです。これを最低血圧というのです。
 ところで、血圧はどこで測るのでしょうか。医師に計ってもらう場合
は、二の腕で測りますが、血圧計によっては手首で測る場合もあるし、
指で測る場合もあります。医師が二の腕で測るのは、心臓が血液を押し
出したばかりの血圧──中心血圧という──を知りたいからです。
 手首でも指でも血圧は測れますが、心臓から離れた場所は血管が細い
ので、ちょっとした変動で数値は変化してしまうのです。ですから、血
圧計を購入する場合はなるべく二の腕で測るものを選ぶべきでしょう。

●血圧は家で測るのが一番正確である

 血圧は測る場所によっても異なりますが、計る時間によっても異なり
ます。また、計る状況によっても数値は違って出てきます。
 計る時間帯ですが、とくに留意すべきは起床時──起床一時間以内の血圧なのです。これは「早朝高血圧」を見逃さないために必要です。「早朝高血圧」というのは早朝だけ高血圧になるというものです。この場合、日中は正常血圧なので気がつかないことが多いのです。そのため、「仮面高血圧」ともいわれているのです。
 榊原記念病院の循環器内科部長である長山雅俊医師は、早朝高血圧に
ついて次のように述べています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 早朝高血圧にはいくつかのパターンがあることが知られいしますが
 多いのは目が覚める三時間ほど前からだんだん血圧が上昇し、朝目
 が覚めた時に著しく血圧が高いパターンです。これがなぜ注意しな
 ければならないかというと、午前中に血圧の不安定さが血管への大
 きなストレスになって、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす引き金にな
 ることがあるからです。これはとても恐ろしいことです。  
      ――長山雅俊著、『心臓が危ない』/祥伝社新書156
―――――――――――――――――――――――――――――――― 長山医師が勧める血圧を測る一番良いタイミングは、朝起きたら、排
尿を済ませ、少し休憩したあと、食事前に計るというものです。もちろ
ん、血圧の薬を飲んでいる場合は、飲む前に測ることが大切です。これ
を週に3回ほどやればベストであるといいます。
 医師の測るときの血圧が正しいとは限らないのです。なぜなら、血圧
を測るときは薬も飲んでいるでしょうし、医師の前に出ると緊張して血
圧の上がる人もいるからです。これを「白衣高血圧」といいます。
 したがって、血圧は家で測るのが一番正しいのです。医師の診察を受
けるときは、家で計った血圧をメモして持っていくことが正しい血圧の
数値を知ることにつながるのです。医師が血圧を測るとき、聴診器をあ
てますが、あれは何をしているかわかりますか。腕にマンシェットとい
うものを巻いて圧をかけ、血液を遮断します。そうすると、聴診器には
音は聞こえなくなります。それから徐々に緩めていくと、ドクン、ドク
ンという音が聞こえます。そのときの水銀柱の数値が最高血圧、再び音
が聞こえなくなったときが最低血圧ということになるのです。
                ―― [心臓について知る/02]
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2010年02月25日

●小さい動物ほど心臓は速く拍動する

 次の数字は何を意味していると思いますか。
――――――――――――――――――――――――――――――――
       人 間 ・・・・・  60〜100
       イ ヌ ・・・・・  70〜120
       ウサギ ・・・・・ 130〜300
       ネズミ ・・・・・ 400〜600
       ウ マ ・・・・・  32〜 44
       ゾ ウ ・・・・・      40
――――――――――――――――――――――――――――――――
 この数字は「一分間の心拍数」なのです。動物の心臓のさまざまの性質は、その動物の大きさと関係があるのです。すなわち、小さな動物ほど心臓が速く拍動するのです。人間の場合は、研究によって次のことがわかっています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 心臓が一度拍動してから、次に拍動するまでの時間は、体重の4分
 の1乗に比例する
     ――長山雅俊著、『心臓が危ない』/祥伝社新書156
――――――――――――――――――――――――――――――――
 例えばネズミはゾウの10倍の速さで拍動していることになります。つまり、ネズミはゾウより10倍も速く血液を全身に送り出していることになります。どうしてこういう違いがあるのかというと、心臓という臓器はその仕組みについては同じですが、心臓を構成する細胞が異なっているのです。
 よく「ノミの心臓」といいます。「ノミの心臓」は、気の小さい人のことをたとえていう言葉です。それでは「ブタの心臓」はどうでしょうか。
 こちらはあまり聞いたことはないと思いますが、医学研究の世界ではよく使われており、実際にブタは人間に役に立っているのです。実は、ブタの心臓と人間の心臓は大きさも形もとてもよく似ているのです。
 そのためブタの心臓は、人間の心臓の研究に役に立っているのです。ブタの心臓の弁は、心臓弁膜症の患者さんに「生体弁」という人工弁として、人間の心臓に移植されてきたほどです。なお、最近の人工弁は、カーボンやステンレスの弁が使われるようになってきています。

●あのリンドバークが心臓手術に貢献している

 心臓という臓器にはいろいろな言葉が残されています。次の言葉の意味がわかるでしょうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 胸壁から心臓まではわずか数センチだが、到達するまで5000年
 の歳月を要した。
      ――長山雅俊著、『心臓が危ない』/祥伝社新書156
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これは心臓外科でいわれている言葉です。心臓にはメスを入れることができなかったので、他の臓器に比べて研究が遅れたのです。もうひとつ、心臓の研究が遅れた原因は、心臓が信仰と深く関わっていたからです。
 スペイン北部にあるアルタミラ洞窟に描かれている壁画の動物の胸には、赤いハートのマークが描かれていて、当時の人はそこを刺せばその動物は死ぬことを経験的に知っていたと思われます。
 オーストリアの王家であるハプスブルグ家には、死体を埋葬するときは心臓を取り出して銀の器に保管するという習慣があったそうです。また、キリスト教の「御心」は心臓であるという説もあるのです。こういう心臓信仰が心臓の研究を長年にわたって遅らせてきたのです。
 心臓の治療が本格的にはじまったのは20世紀になってからのことです。その先駆者というべき人は、ロックフェラー医学研究所のフランス人医師であるアレクシス・カレルです。
 カレルは、血管吻合法を考案した医師です。これによって、心臓治療の第一歩がはじまったのです。カレルは、1912年に医学界に貢献したことによりノーベル賞を受賞しています。
 肝臓や胃などの臓器は血液を遮断すれば手術はできますが、心臓の場合はそれはできないのです。しかし、血液に酸素を送り込む装置とポンプがあれば、心臓と肺を一時的に休ませることができると考えた人がいます。その人こそ、大西洋単独横断飛行を成功させた飛行士、リンドバークなのです。
 リンドバークは、大西洋単独横断飛行の賞金や講演料などをすべてカレルに渡し、共同研究をはじめたのです。そして世界ではじめての人工心肺装置の開発に成功したのです。それは次のように名付けられています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
         カレル・リンドバーク・ポンプ
――――――――――――――――――――――――――――――――
 1935年、この装置によってはじめて心臓にメスが入れられるようになったのです。それから約75年、心臓外科は大きな進歩を遂げることになったのです。しかし、それ以前は心臓病になると、手術ができないままにほとんど亡くなっていたのです。そういう意味で、現代人は非常に幸せであるということができます。 [心臓について知る/01]
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2010年02月18日

●M2阻害剤としての「アマンタジン」

 前回ご紹介した現在市販されている2種類の抗インフルエンザ薬を再
現しておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.      M2阻害剤
         2.ノイラミニダーゼ阻害剤
――――――――――――――――――――――――――――――――
 M2阻害剤としては「アマンタジン」があります。商品名はシンメト
レルです。アマンタジンは、ウイルス表面にあるM2タンパク質の働き
を阻害することによってウイルスの増殖を抑えるのです。そのため「M
2阻害剤」というのです。しかし、M2タンパク質はB型インフルエン
ザウイルスには存在しないので、アマンタジンはB型ウイルスには効果
がないのです。
 インフルエンザウイルスは、宿主の細胞に取り込まれただけでは増殖
できないのです。インフルエンザウイルスが細胞内で増殖するには、ウ
イルスの命ともいうべきRNAを宿主の細胞質内に移動させなければな
らないのです。
 ところが、ウイルスのRNAは、タンパク質との複合体(RNP)を
形成していて、外皮膜――エンベロープと呼ばれる脂質でできた殻に固
定されているのです。したがって、宿主の核に送り込むには、RNPと
外皮膜との結合を解除させる必要があるのです。
 M2タンパク質というのは、このRNPと外皮膜との結合を解除させ
るうえで重要な働きをするのです。結合の解除には「イオンチャネル活
性」がカギを握っています。M2タンパク質は、ウイルスの外皮膜を貫
通しているタンパク質であり、水素イオンの導入を制御する「イオンチ
ャネル活性」を持っているのです。
 インフルエンザウイルスが宿主細胞の小胞――エンドソームに取り込
まれると、イオンチャネルが活性化され、エンドソームの水素イオンが
ウイルス粒子内に流入するのです。水素イオンが流入して外皮膜の内部
が酸性になると、RNPと外皮膜との結びつきがゆるんで、RNPが外
皮膜から離れることができるのです。
 しかし、アマンタジンを投与すると、M2タンパク質の働きが阻害さ
れ、水素イオンの流入がストップするのです。その結果、RNPは外皮
膜から外れることはできなくなり、ウイルスRNAを細胞質に送り込む
ことを阻止してウイルスの増殖を抑えることができるのです。
 なお、アマンタジンは予防薬として優れた特性を持っており、事前に
服用しておけば、インフルエンザウイルスに感染しにくくなります。ま
た、感染した後に服用すると、発熱などの症状も軽減するので、世界各
国の医療現場で使われたのです。しかし、最近では使われることはない
のです。
 アマンタジンが米国で認可されたのは1966年のことですが、それ
からわずか数十年で抗ウイルス薬としては役に立たなくなっています。
それは耐性ウイルスの出現によるものです。アマンタジン投与の患者の
実に80%に耐性ウイルスが出現することが確認されているのです。

●ノイラミニダーゼ阻害剤としての「タミフル」

 アマンタジンの効力がなくなってしまった現在、最も使われているの
は、ノイラミニダーゼ阻害剤なのです。日本で認可されているノイラミ
ニダーゼ阻害剤は「タミフル」の商品名で知られる経口剤の「リン酸オ
セルタミビル」と、吸入剤の「ザナミビル」――商品名リレンザです。
 ノイラミニダーゼ――NAというのは、ウイルス表面を覆うスパイク
タンパク質の一つです。その名の通りノイラミニダーゼ阻害剤は、NA
の働きを阻害することによって、ウイルスの増殖にブレーキをかけるの
です。
 アマンタジンが、ウイルスRNAの細胞内への侵入を阻止するのに対
し、ノイラミニダーゼ阻害剤は、細胞内で増殖したウイルスが、細胞表
面から遊離していくのを阻害する薬なのです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 インフルエンザウイルスは、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダー
ゼ(NA)とを有しています。赤血球凝集素は、ウイルスが宿主細胞に
侵入するさいに必要になります。ウイルスは、赤血球凝集素を介して、
宿主細胞のウイルス受容体に結合します。
 ノイラミニダーゼは、ウイルスが宿主細胞から遊離する際に必要にな
るのです。宿主細胞内で増殖したウイルスは、ノイラミニダーゼにより
ウイルスの赤血球凝集素と宿主細胞のウイルス受容体との結合を外す役
割をするのです。抗インフルエンザウイルス薬のリン酸オセルタミビル
すなわち、タミフルはウイルスのノイラミニダーゼを阻害し、宿主細胞
内で増殖したウイルスが、宿主細胞外への遊離を抑制して、インフルエ
ンザウイルスの増殖を抑制するする働きをするのです。
 タミフルは、ギリアド・サイエンシズ社が1996年に開発した抗イ
ンフルエンザ薬であり、スイスのロシュ社が製造し、日本では中外製薬
が販売しているのです。日本は世界でもっともタミフルの消費量の多い
国であり、季節性インフルエンザが大流行した2002〜2003年に
は全世界でのタミフル生産量の70%が日本で使われたのです。
               ―― [インフルエンザの話/10]
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2010年02月12日

●なぜ、日本は学童へのワクチン集団接種をやめたのか

 1977年以降、日本で流行を繰り返しているインフルエンザウイル
スは次の3つです。
――――――――――――――――――――――――――――――――
      1.       I―― H3N2亜型
      2.A型ウイルス I
               I―― H1N1亜型
      3.B型ウイルス
――――――――――――――――――――――――――――――――
 これらのウイルスが交互に流行を繰り返してきていることに着目した
日本の厚生省は、1976年〜1986年まで、小学校に通う学童に、
インフルエンザワクチンの集団定期接種を行ってきたのです。
 その効果はてきめんであり、1960年代から1980年代には、イ
ンフルエンザによる死亡者数、超過死亡者数は大きく減少したのです。
「超過死亡」というのは、平均的な死亡者数を超過した死亡者数のこと
です。
 しかし、厚生省は1987年になると、学童への定期接種を任意接種
に変更したのです。そのため、ワクチンの接種量は激減、これに連動し
て死亡者数、超過死亡者数はともに増加したのです。
 インフルエンザの羅患率は、0歳〜14歳が最も多く、15歳以上に
なると急減します。15歳以上になると、流行を繰り返している主要な
ウイルスにほとんど感染するので免疫ができ、インフルエンザにかかり
にくくなります。
 問題は年齢別の死亡率なのです。65歳以上の高齢者の死亡率が突出
して高いのです。インフルエンザの羅患率そのものは他の年代とほとん
ど変わらないのですが、体力や免疫力が落ちているので、感染すると重
篤な症状に陥りやすくなるのです。
 学童へのインフルエンザ集団接種は社会全体におけるインフルエンザ
ウイルスの総量を減らす効果があり、それによって高齢者のインフルエ
ンザによる死亡率を抑制してきたのです。その優れた感染予防対策を厚
生省は、なぜかその優れたシステムを放棄してしまったのです。確たる
根拠に基づかない「集団接種は予防効果が低い」という一部意見に引き
ずられて中止になったといわれています。実に愚かなことです。
 1987年に強制力のない勧奨接種に切り替えられ、1994年に予
防接種法が改正されると、学童へのインフルエンザワクチンの集団接種
は中止されたのです。
 逆に米国などの先進国では、日本における集団接種の効果を分析して
おり、これから若者層への集団接種を行おうと検討しているのです。厚
生省は年金問題だけではなく、いろいろなところで間違いを冒している
のです。

●「抗インフルエンザ薬」――もうひとつの切り札

 パンデミック対策としてワクチンと並ぶもうひとつの柱は「抗ウイル
ス薬/抗インフルエンザ薬」なのです。
 抗インフルエンザ薬とは何でしょうか。少し専門的ですが、専門家は
次のように説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 宿主の免疫応答を利用するワクチンの場合、事前に予想した「ウイル
 スの抗原性」と、実際に感染した「ウイルスの抗原性」が合致しなけ
 れば、予防効果が下がってしまう。これに対して、抗インフルエンザ
 薬は、インフルエンザウイルスに共通する感染・増殖機構を阻害する
 ことで作用するので異なる亜型のウイルスに対しても同等の効果を示
 す。いうなれば、インフルエンザワクチンは特定の亜型のウイルスに
 しか効かないオーダーメイド品であるのに対して、抗インフルエンザ
 薬は、それよりも多くの亜型のウイルスに対応できる汎用品なのだ。
――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/
新型ウイルスの謎に迫る』(講談社刊)
――――――――――――――――――――――――――――――――
 新型ウイルスの流行に先立って接種するワクチンの有効性は、どのよ
うなウイルスが出現するかわからないので、その効果に確証がないので
す。一方、実際に出現した新型ウイルスをもとに作製する新型ワクチン
は感染を予防する力はありますが、ワクチンメーカーの製造能力に限界
があるので、その間に新型ウイルスの感染は拡大してしまいます。
 そのため、パンデミック初期には、抗インフルエンザ薬の果たす役割
は大きいのです。しかし、抗インフルエンザ薬にも大きなネックがある
のです。というのは、季節性インフルエンザでは、抗インフルエンザ薬
が効かない耐性ウイルスが出現するからです。
 現在市販されている抗インフルエンザ薬には次の2種類があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
        1.      M2阻害剤
        2.ノイラミニダーゼ阻害剤
――――――――――――――――――――――――――――――――
               ―― [インフルエンザの話/09]
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2010年02月04日

●ワクチンとは何か――2種類がある

 ワクチンとは何であろうか。
 ワクチンは人類の考えたウイルス感染症を予防する方法の中で最も効
果的なものです。天然痘やポリオ、そしてインフルエンザなど、ワクチ
ンによって、数多くのウイルス感染症が克服されているのです。
 ワクチンの目的は、治療薬ではなく、「感染を予防すること」です。
そのため、ワクチンは感染前に接種するものです。こんな当たり前のこ
とが、よくわかっていない人も多いのです。
 ワクチンを発見したのは英国の開業医エドワード・ジェンナーです。
牛痘にかかった人間は天然痘にかかりにくくなり、かかっても症状が軽
いことを発見し、これにより天然痘ワクチンを作ることに成功したので
す。
 この研究を引き継いだのは、フランス人の生化学者のルイ・パスツー
ルなのです。パスツールは、病原体を培養し、これを弱毒化し、それを
健康な人に感染させるという、当時としては画期的な「ワクチン療法」
を確立したのです。
 その後、ウイルス学の発展とともにワクチン製造の技術革新が進み、
いろいろなタイプのワクチンが開発されるようになったのです。現在使
われているワクチンには次の2つがあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
          1.生ワクチン
          2.不活化ワクチン
――――――――――――――――――――――――――――――――

●「生ワクチン」は効果が高いが副作用がある

 パスツールをはじめとする初期の学者たちが使ったのが、「生ワクチ
ン」なのです。生ワクチンは弱毒化されていますが、文字通り「生きて
いるワクチン」であり、生ワクチンを投与すると、人間の体内で軽度の
感染が起きるのです。
 これによって免疫記憶が生まれ、病原体を体内から排除したあとも、
その免疫記憶は残るので、次に同じ病原体が侵入してきたとき、素早く
抗体を産生して発症を防ぐのです。
 このあたりのことをもう少し詳しく述べることにします。病原体が体
内に侵入すると生体内には病原体をターゲットとする抗体が血清中に作られるのです。抗体を作るのは「B細胞」と呼ばれるBリンパ球です。
B細胞が作った抗体が病原体に付着すると、病原体は自由を奪われ、伝
播力を失うのです。これを「体液性(液性)免疫」といいます。
 この病原体を覚えたB細胞の一部が「免疫記憶細胞」になるのです。
この細胞はリンパ節に残り、同じ病原体が侵入してきたときに、すばや
く抗体を作るB細胞を産生するのです。はしかや風疹などに一度かかる
と、二度と発症しないのは、この免疫記憶の働きによるものです。
 ところが、感染が少し重度に進むと、ウイルスは宿主の細胞内に侵入
するのです。こうなると、B細胞は無力です。しかし、ウイルスによっ
て侵された細胞は、生体内で「感染した細胞」として認識されます。
 そうすると、ウイルスは「細胞傷害性T細胞」によって攻撃され、排
除されます。これを「細胞性免疫」というのです。生体は、この2重の
免疫によってウイルスを排除してくれるのです。

●「不活性ワクチン」が一般的には使われる

 「生ワクチン」と並ぶもうひとつのワクチンが「不活化ワクチン」で
す。生ワクチンの場合、何しろ生きたウイルスであるので、もともと免
疫力の弱い人に接種すると、副作用が発生することがあるのです。その
ため、生ワクチンで日本で認可されたものは少ないのです。
 不活化ワクチンとは一口にいえば「死んだワクチン」ですが、その定
義を示しておきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 不活化ワクチンはホルムアルデヒドなどの化学薬品などで不活化させ
 た(感染能力を失わせた)ウイルスや細菌、あるいはそのタンパク質
 の一部をもとに作製する。現在使用されている不括化インフルエンザ
 ワクチンは、ウイルスの構成要素をバラバラにしたスプリットタイプ
 が主流だ。このタイプは副作用のリスクが少ない反面、ウイルス構造
 を壊さずに不括化した全粒子タイプに比べて効き目が悪いとされる。
  ――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/新型ウ
                 イルスの謎に迫る』(講談社刊)
――――――――――――――――――――――――――――――――
 不活化ワクチンの問題点は生ワクチンよりも予防効果が低い点です。
それは、生ワクチンが「体液性免疫」と「細胞性免疫」の2つの免疫でウイルスを防ぐのに対して、不活化ワクチンは、「体液性免疫」だけなのです。
 そのため、細胞内に入ってしまったウイルスには無力になのです。そ
れに加えて、不活化ウイルスを皮下接種しているので、血中には体液性
免疫によって抗体は作られるものの、インフルエンザウイルスの侵入口
である鼻や喉の粘膜面に抗体が分泌されにくいのです。生ワクチンより
も安全ではあるものの、効果はいまひとつなのです。
               ―― [インフルエンザの話/08]     
 
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2010年01月28日

●インフルエンザに対するメディア論調の間違い

 新型インフルエンザをめぐる各メディアの報道で気になるというか誤解を与えやすい次のような論調があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 新型ではあるが、弱毒性──低病原性であり、季節性インフルエンザ
 の危険性とさほど変わらない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 この論調は2つの点で間違っています。
 1つは、低病原性だからといって、新インフルエンザが季節性インフルエンザと同等の危険性しかないというのは間違っています。低病原性であっても、ひとたびパンデミックが起きると、低病原性であっても大きな被害が起きるからです。
 なぜなら、新型ウイルスは人類の大部分が感染したことのない抗原タンパク質を持っているので、その強力な「伝播力」によって、かなりの確率でほとんどの人が感染、発症してしまうのです。そのため致死率が低くても、分母となる感染者数が多いと、多くの犠牲者が出ることになります。
 もう1つは、新型インフルエンザの病原性が急に強くなることがあるということです。世界中で、現在大流行している新型インフルエンザは、スペイン風邪ウイルスと同じH1N1亜型なのですが、スペイン風邪の致死率も流行が始まった春頃はそれほど高くはなかったのです。しかし、第2波が流行した秋には致死率は5倍も高くなっていたのです。
 なぜ、これほどスペイン風邪の致死率は高くなったのでしょうか。
 スペイン風邪のウイルスは、ヒトの体で感染・増殖を繰り返しているうちに強い病原性を獲得した可能性があるのです。これと同じことが現在流行している新型ウイルスで起こっても不思議ではないのです。
 インフルエンザウイルスというものは絶えず変異を繰り返しているのです。そのため病原性が変化することはよくあることなのです。ごくわずかなアミノ酸変異で、突然病原性の強いウイルスに変化することがあるのです。
 ここで留意すべきことは、ウイルスを構成する物質には毒性がないということです。病原性の強いウイルスでも病原性の弱いウイルスでも化学的な組成はほとんど同じです。それでは、病原性の強弱は何によってもたらされるものなのでしょうか。
 『インフルエンザパンデミック』(講談社刊)の著者の一人である河岡義裕氏は、同書でこれについて次のように説明しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 端的にいえば、ウイルスが増殖できる臓器の種類と増殖速度の違いで
 ある。低病原性鳥インフルエンザウイルスはニワトリの呼吸器や腸管
 でしか増えないのに対して、高病原性鳥インフルエンザウイルスはニ
 ワトリの脳を含む全身の細胞で増殖する。前者を「局所感染」、後者
 を「全身感染」という。ウイルスが増殖できる「組織」が多ければ多
 いほど、宿主がダメージを受けるのは当然だ。
 ――河岡義裕/堀本研子著『インフルエンザパンデミック/新型ウイ
 ルスの謎に迫る』(講談社刊)
――――――――――――――――――――――――――――――――

●スペイン風邪の恐ろしさを知れ

 スペイン風邪がどれほど恐ろしいものかという認識には温度差があります。何しろ今から90年前の出来事ですから、その体験者はほとんどおらず、伝承のみでしか伝わっていないからです。
 しかし、文書として遺されたものは多くあります。河岡義裕/堀本研子著の前掲書ではリチャード・コリヤー氏の次の文を掲載しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 ケープ・タウンで、輸送軍団の運転手をしていたチャールス・ルイス
 は、休暇で、5キロメートル離れた海岸の両親の家へ行くために電車
 に乗ったが、その電車の車掌は、発車の合図をしようとして、プラッ
 トフォームに立ったとき、倒れて、そのまま死んでしまった。それで
 も、ルイス自身が発車係を務めて、電車は動き出したが、何分も経た
 ないうちに、次々に乗客が倒れて死んでいった。そのため電車は、ま
 だ生暖かい死体を市の馬車に渡すために5回も止まらなければならな
 かった。しかも、海岸までの道のりの4分の3まで行ったところで、
 運転手も前に崩れるように倒れて死んでしまい、結局ルイスは、まだ
 生きていることを感謝して、家まで歩いたのである。
                   ――リチャード・コリヤー著
   『インフルエンザ・ウイルス スペインの貴婦人/、清流出版刊
――――――――――――――――――――――――――――――――
 スペイン風邪にかかると、40度を超える高熱が出て重度の肺炎にかかって肺水腫を起こすのです。そして多くのケースでは、発症してから数日で呼吸困難に陥り、死にいたるのです。
 スペイン風邪の流行当時、第一次世界大戦の最中だったので、事実は伏せられ、それが被害を大きくしたのです。スペイン風邪にかかった兵士が戦場を転戦する過程で世界中に伝播したからです。
―――――――――――――― ―― [インフルエンザの話/07]
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2010年01月21日

●遺伝子変異には2つの種類がある

 ウイルスは絶え間ない遺伝子変異を繰り返しているのですが、実はイ
ンフルエンザウイルスで怖いのは、この「変異」なのです。遺伝子変異
には、次の2つがあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
  1.マイナーモデルチェンジ型の変異 ―― 抗原の 連続変異
  2.フル  モデルチェンジ型の変異 ―― 抗原の不連続変異
――――――――――――――――――――――――――――――――
 インフルエンザウイルスは、車のモデルチェンジに例えることができ
ます。「マイナーモデルチェンジ」は、エンジンやシャーシーなどの骨
格部分はそのまま使って、オプション部品を付けたり、塗装の色を変更
したりする――いわゆるマイナーな変更ですが、インフルエンザウイル
スにもそういう変化はあるのです。これを「抗原の連続変異」と呼んで
いるのです。
 人間がインフルエンザウイルスに感染すると体内に抗体ができます。
これがあるので、次にウイルスが入ってきても獲得免疫が働いて、ウイ
ルスを撃退してくれるのです。
 しかし、抗原の連続変異で生まれた基本構造は変わらないものの、周
辺が少し違うウイルスが入ってくると、用意した抗体では対応できない
ことが起きるのです。したがって、人間の抗体防御網をすり抜けたウイ
ルスが生き残り、増殖することになります。
 われわれが抗体があっても毎年インフルエンザウイルスに感染してし
まうのは、この「昔と少しだけ形の異なるウイルス」のせいなのです。
したがって、毎年感染予防のためにワクチンを打ち続けなければならな
いのです。
 問題は、フルモデルチェンジ型の変異です。これが起きると、ウイル
スの抗原性はがらりと一変するのです。このような劇的な変異のことを
「抗原の不連続変異」といいます。
 ここで少し専門的な説明を理解していただく必要があります。インフ
ルエンザウイルスを電子顕微鏡で見ると、ウイルスの外被膜から釘のよ
うなものが出ているのがわかります。この釘状のものはタンパク質であ
り、「スパイクタンパク質」というのです。「スパイク」とは「釘」と
いう意味です。
 スパイクタンパク質は次の2つで構成されています。これら2つは、
インフルエンザウイルスの性質を決定づける重要な役割を果しているの
です。
――――――――――――――――――――――――――――――――
      1. ヘマグルチニン ・・・・・ HA
      2.ノイラミニダーゼ ・・・・・ NA
――――――――――――――――――――――――――――――――
 人間のゲノム――ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報
は2本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)であるのに対して、インフルエ
ンザウイルスのゲノムは1本鎖のRNA(リボ核酸)で、しかも8本に
分かれています。
 HAは抗原性の違いにより、16の亜型に分類されます。「H5N1
亜型」の「H5」はHAの亜型が「5」という意味になります。これに
対してNAはNAの抗原性の違いにより、9つの亜型に分類されます。
「H5N1亜型」の「N1」とはNAの亜型が「1」という意味です。

●遺伝子の再集合によって誕生する新型インフルエンザウイルス

 さて不連続変異が起きると、インフルエンザウイルスの抗原性を決め
るHAとNAの両方、あるいはどちらか一つが別の型に変化してしまう
のです。これによって、季節性インフルエンザとは抗原性の異なる新し
いインフルエンザが生まれることになります。
 そのため、以前に感染したときにできた免疫も、現行のワクチンも全
然効果がなくなります。1957年のアジア風邪や、1968年の香港
風邪の原因になった新型インフルエンザウイルスは、こうした仕組みに
よって誕生したのです。抗原の不連続変異をまとめると次のようになり
ます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
   ≪抗原の不連続変異≫
    1.遺伝子再集合によりウイルスの抗原が大きく変化
    2.HA亜型のみ、あるいはHA、NA両亜型が変化
    3.パンデミックの一因/現行のワクチンは効果なし
――――――――――――――――――――――――――――――――
 現在世界中で感染が拡大している豚由来の新型インフルエンザウイル
ス――A型、H1N1亜型も遺伝子再集合によって発生した、まったく
新しい顔を持つウイルスなのです。このように、抗原性が著しく異なる
新型のインフルエンザウイルスは、遺伝子の再集合によって誕生するの
です。
 遺伝子の再集合とは、ひとつの細胞に異なるインフルエンザウイルス
が同時に感染することによって、従来とはまったく異なる組み合わせの
RNA分節を有する遺伝子が誕生することをいうのです。
 このウイルスは高病原性インフルエンザに比べて病原性が弱いとされ
ているので、季節性インフルエンザの仲間ではないかと思われています
が、まったくの別物なのです。
――――――――――――――――――[インフルエンザの話/06]
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2010年01月14日

●豚由来の新型インフルエンザ――A型、H1N1亜型

 2009年以降世界的に流行している新型インフルエンザ――A型、
H1N1亜型は、豚由来のインフルエンザですが、豚由来のインフルエ
ンザが流行したのは今回がはじめてではないのです。
 今から34年前の1976年2月5日のことです。米国東海岸のニュ
ージャージー州にある米軍の陸軍基地フォート・ディスクで19歳の二
等兵が病院に担ぎ込まれたのです。ところが、懸命な治療のかいなく、
この兵士は急死してしまったのです。
 しかし、事態はこれにとどまらなかったのです。彼の周辺にいた4名
の兵士が次々に同じ症状を訴えて入院する騒ぎになったのです。原因不
明の感染症と判断した州の公衆衛生担当者は、検体をCDC――アメリ
カ疾病管理予防センターに送付して調査を依頼したところ、死亡した兵
士から豚由来のH1N1亜型インフルエンザウイルスが発見され、基地
内にいた500人以上が感染していたことが判明したのです。
 当時ヒトの間で流行していたインフルエンザウイルスはH3N2亜型
(香港型)だけだったので、H1N1亜型は新型ウイルスであり、この
まま放置して感染が広がると、パンデミックに進展する危険があったの
です。
 そこで、CDCは、当時のフォード大統領に対してパンデミックを未
然に食い止めるために、国民全員を対象にワクチン接種の必要性を訴え
たのです。その結果、大統領はこの勧告を受け入れ、前例のない規模の
ワクチン接種計画が実施に移されたのです。
 そのために1億人分のワクチンが用意され、約4000万人にワクチ
ンが接種された段階で予想外のことが発生したのです。予想外のことと
は、インフルエンザの感染は思ったほど広がらず、その代わりワクチン
接種者の一部から、ギランバレー症候群を発症するケースが続発したの
です。
 ギランバレー症候群とは、筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に
力が入らなくなる難病で、昨年亡くなった女優の大原麗子さんがかかっ
た病気です。結局、このギランバレー症候群で32人が死亡し、数百人
に後遺症障害が残ったのです。そのため、インフルエンザの予防接種は
中止に追い込まれることになったのです。
 結局、この豚由来のインフルエンザ騒ぎは、死者1名、数名の重傷者
と、それをはるかに上回るワクチン禍の犠牲者を出して終わったのです。

●「種の壁」を超える感染が広がる

 豚におけるインフルエンザは、1918年にもイリノイ州の農場での
発生が報告されています。ちょうど同時期にヒトとヒトの間で「スペイ
ン風邪」によるパンデミックが発生したので、ヒトで大流行したスペイ
ン風邪が豚にも伝播したのか、それとも逆に豚のウイルスがヒトに伝播
し、スペイン風邪を引き起こしたのかはわかっていないのです。
 はっきりしているのは、2009年にパンデミックを起こした豚由来のインフルエンザウイルス――A型、H1N1亜型は1918年に豚で
流行したウイルスの流れを組んでいることです。
 A型インフルエンザは、ヒト、豚、鳥のほかに、猫、馬、犬、虎、ミ
ンク、アザラシなどの幅広い生物種がかかる人獣共通感染症であり、鳥
→豚、ヒト→豚、豚→ヒトというように種を超えた感染を引き起こして
さまざまな遺伝的バックグラウンドを持つインフルエンザウイルスが絶
えず登場しています。
 最近米国では、馬に感染したインフルエンザウイルスが、ドックレー
ス用の競争犬に感染しそれがペット用の犬にも感染が広がっています。
今のところ日本では感染が広がっていませんが、日本でも流行する可能
性があります。犬の場合、ヒトとは濃密な接触をするので、犬→ヒトと
いう、新たな種を超えた感染が起きる可能性も高いのです。
 「種の壁」を超える感染は容易には行ないのです。とくにヒトのよう
な高等生物では、気の遠くなるような長い歳月を経るうちに遺伝子変異
が少しずつ蓄積して、はじめて新しい形質が生まれる。しかし、インフ
ルエンザウイルスは非常に早く進化できるのです。
 インフルエンザウイルスは、他の生物種であれば、何百万年もかかる
ような進化を、年単位、月単位でやり遂げてしまうのです。なぜ、イン
フルエンザウイルスはそんなに速く進化できるのであろうか。
 この「変異」について、専門家は次のように解説しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――
 鍵を握るのが遺伝物質の違いだ。高等生物は遺伝情報をDNAに記録
しているのに対して、インフルエンザウイルスは<遺伝情報をRNA
に記録している。生物やウイルスはDNAやRNAを複製しながら子
孫を増やしていくが、その際に一定の割合でコピーミスが生じる。D
NAの場合は、DNAを複製するDNAポリメラーゼという酵素にコ
ピーミスを修復する機能があるのだが、RNAを複製するRNAポリ
メラーゼにはそれに相当する機能がない。そのためRNAウイルスで
はヒトに比べて1000倍から1万倍の確率で遺伝子変異が生じる。
                   ――河岡義裕・堀本研子著
『インフルエンザパンデミック/新型ウイルスの謎に迫る』/講談社刊
―――――――――――――   ―― [インフルエンザの話/05]
posted by キーヘルス at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | インフルエンザの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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